たった一人の異世界侵略〜特殊スキル《弾幕》と《無限チュートリアル》でハンパな異世界を分からせに来た〜

∞44【父、帰る】

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　父がレオ山に向かってから、10日が経った。

　父は出先から連絡一つ寄越さない。しかし、母は何も心配してはいないらしく、そのうちひょっこり帰ってくるでしょ…とおっとり言ったものだ。

　父が不在の間、アゾロが自分のスキルについて新たなことを発見したり、父がいない寂しさでエミルが少し赤ちゃん帰りして母と同じ布団で眠ったりした。

　おっとりとした母一人だけは、普段となにも変わらずにいつも通りの生活を続けた。父がいなくても、ディオアンブラ家がなんとかやっていけるのは、この母のお陰と言ってよい。

「お早う！我が家族諸君！！」

　アゾロは寝間着姿で髪に寝癖をつけたまま、一階の台所で朝食を摂っている家族達に、元気良く声をかけた。そして、そのまま自分の椅子に座り、自分のためにテーブルの上にすでに用意されていた母が作ってくれた朝食を食べ始める。

　アゾロが食べ始めてから数秒後。

　朝食を食べる娘の横顔を『じっ…』と見つめている父からの視線に気付いたアゾロが、目玉焼きを頬張りながら言った。

「あれ、父帰ってたの？おかえり」

　久しぶりの父との再会に特に感慨もなく、目玉焼きを咀嚼しながらアゾロは言う。家に食べるものさえ十分にあるなら、年頃の娘というものは父が家に居ようといまいと気にしないものだ。

　長い間家を留守にしているので、家族が心配で今朝早くに急いで帰ってきた父は、そんな娘の態度を見て少しだけさみしく感じつつカップのコーヒーを一口啜る。

　父はこの10日というもの、ほとんど寝ていない。レオ山に起こった不穏な現象を不安がる住民達を安心させるために、領主としてディオアンブラ領内のあちこちを駆けずり回っていたのだ。

　しかし、父はそんなことは家族にいちいち言わない。代わりに、父は眠そうな顔でアゾロに訊ねた。

「……おう、ただいま。ちゃんと鉄球で骨密度（コツミツド）上げてる？」

　木皿に盛られたピクルスと新鮮な葉物野菜のサラダを木のフォークを使ってかきこみ、晩御飯のシチューを温め直したものを啜りながら、アゾロが父に応える。

「わたし、アレやんない！危ないもの」

　母の手料理を咀嚼しながら、しつこい！この骨密度（コツミツド）親父が！とひどいことを心の中で独りごちる15歳のアゾロ。

　そんな多感な時期の娘（アゾロ）の様子を見ながら、またコーヒーを一口啜りつつ父は淡々と言った。

「……5歳の弟に組打ちで負けたクセに？」

　ふぅ…と熱いため息をつきながら、君には失望した…と言わんばかりの冷めた目線を娘に送る父。

　どうやら、この父はエミルとの『お相撲（スモウ）』の顛末をすでに知っているらしい。

　思わず朝食を咀嚼するアゾロの動きが止まった。

　そして、バッ…！とアゾロは母の方を見る。

「……なかなかの『いい負けっぷり』だったわ」

　にっこりおっとりと母は言った。

　バッ…！とアゾロは弟（エミル）の方を見る。

「今度から『ぼくが』お姉ちゃんをまもってあげる！だって強いんだもん『ぼくの方が』！」

　牛乳を飲みながら言う5歳の弟（エミル）。

　少し前まで赤ちゃん帰りしていたことなど、エミルは全く覚えていない様子だ。

　母が出してくれた食後の薄いお茶を喫しながら、家庭内での自分のヒエラルキーが急降下していることに戦慄するアゾロ。

　昨日までは、母子三人で子豚の世話とか鶏小屋の掃除とか一緒にガンバってきたというのに。

　それなのに！

(……ただ『父が帰ってきた』だけなのに、なんだこの家族の変化は！？)

　そんなアゾロの様子を横目に見つつ、カップに残ったコーヒーを啜りながら父が言った。

「……骨密度上げるのサボるからだ」

　自分も色々サボりがちな父は、自分のことを棚に上げつつ眠そうな顔でアゾロに言った。

　そして、母にコーヒーのおかわりを所望する父。父はまだ眠そうである。

「……うっさい」

　小さく父に反論しながら、木の楊枝で歯をせせるアゾロ。

　心の中ではアゾロはこう思っていた。

(今のうちにせいぜいバカにするがいい、この骨密度（コツミツド）親父が。今に吠え面かかせてやる！！)

…To Be Continued.

⇒Next Episode.

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