∞41【わたしだけの無限】
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「『精神と時の部屋』って、なんやねん……」
アゾロは寝起きで、ぼんやりとつぶやいた。
昨日はエミルとの相撲の勝負を何度も『心の中』で繰り返したので、一夜明けた今朝も少しだけ、アゾロのなかに『心の疲労感』が残っている。
「……心の中の時間とか、
アゾロはベッドから半身を起こしながら、よくない言い方で夢のおっさんを罵った。
しかし、その直後に顎に指を当てて、アゾロは「ん……?」と少し考え込む。
そしてアゾロは、夢の中でおっさんが言っていた言葉の断片を、自分でも口に出して言ってみた。
「『精神と時』、『心の中』、『無限の拡がり』……」
《“無限”チュートリアル》……?
瞬時に頭の中に『ひらめき』が奔るアゾロ。
アゾロはすぐさまベッドから飛び降りると、机の上に置いたままの父から貰った『鉄球』を右手で掴んだ。そして、鉄球を掴んだまま右手をまっすぐに伸ばして、鉄球を自分の目と同じ高さにまで掲げるアゾロ。
そして、鉄球を手放すと同時に、アゾロは声に出して『
「《無限チュートリアル》、起動!」
アゾロが『命令』した直後。
いつものように、アゾロの意識は心の中の『幻覚の森の中』へと瞬時に飛ばされる。いま、アゾロの目の前には、幻覚の森の風景しか見えていない。
『現実の方で落下しているハズの鉄球』は、アゾロの心の中の幻覚上には、当然ながら『存在しない』。
「……ふむ」
『幻覚の森の中』に立っているアゾロは、無意識的に言葉とも呼気ともため息ともつかない声を発した。
目の前で起こる一つ一つの要素を確認しながら、アゾロは慎重に自分の行動を継続する。
自分の心が作り出した『
そして、アゾロはいつものように『幻覚のイノシシ』との戦いを心の中で繰り広げた……。
「……ふぅ!」
心の中で、幻覚のイノシシに勝利したアゾロ。しかし、今回の目的はイノシシと戦うことではない。
今回、アゾロがイノシシと戦って、勝利するまでに『かかった時間』。
アゾロ自身の『主観的な時間』では、そこそこの長い時間が経過しているように思えた。それは、アゾロの主観では、
幻覚の森の中に立っているアゾロは、すぅ…と胸に大きく息を吸い込んで一回留める。そして、アゾロは声に出して『
「……《無限チュートリアル》、解除!」
《無限チュートリアル》はアゾロ自身の『能力』なので、声に出して命令する必要性は、全くない。能力を起動するにしろ、解除するにしろ、アゾロ自身が心の中で『
しかし、自分にとって分かり易く『手順』を踏むために、今回は敢えてアゾロは自分の声で命令した。
アゾロが発した『命令』に従って《無限チュートリアル》状態が解除され、アゾロの意識が『現実の時間の中』に戻ってきた。
アゾロの意識が『心の中』から『現実の中』へ戻ってきた『その瞬間』。
『現実のアゾロの目の前には、まだ鉄球が落下直後の状態のままで、空中に静止していた』。
そして、《無限チュートリアル》状態が解除され、アゾロの意識が現実に戻った直後から、アゾロの目の前の『鉄球』がゆっくりとした動きで落下を始める。
空中に静止していた鉄球がゆっくりと落下し始める様子を、アゾロは感覚の目でじっ…と見つめている。
「……ほいっと!」
声を上げながら、アゾロは伸ばしたままの右手で楽々と『空中の鉄球』をキャッチした。まるで最初から手の中に掴んでいたかのように、鉄球はアゾロの右手の中に『なんの手応えもなく』収まった。
アゾロは、しばらくの間しげしげと自分の手の中の『リンゴくらいの大きさの鉄球』を眺める。
「……わたしが《無限チュートリアル》の中にいる間、『現実の時間は止まっている』……」
右手の中の鉄球を見ながら、アゾロがつぶやいた。
今まで、アゾロは《無限チュートリアル》中に現実の世界がどうなっているのかなど、考えたことはなかった。
むしろ《無限チュートリアル》の直後はそれなりに精神的な疲労があるので、『そんなこと考えたこともない』と言った方が正しい。
「《無限チュートリアル》。わたしの心の中にある『わたしだけの無限』……」
今までアゾロは《無限チュートリアル》のことを、ただ『便利だな〜!』くらいにしか思ってはいなかった。
しかし、この時。
アゾロは、自身が名付けた異能である《無限チュートリアル》最大の『優位性』を、なんとなくではあるが『認識』し始めていた。
…To Be Continued.
⇒Next Episode.
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