∞2【竜の御座石】

≈≈≈


≈≈≈


(…どん!…どん!…どん!…どん!……ッ)


「……あいつ、何やねん!」


 新月の夜。

 少女は、レオ山の山頂で地団駄を踏んだ。

 少女が足を踏みしめる度に足場とする大きないわが、だんだんと地面の中に沈み込んでいく。


 先刻の【竜】から言われた言葉が引っかかる。

 『否定ネガシオン』。

 ナニソレ、どうゆうことやねん。何語やねん。

 そんで、なんでわたし意味分かんねん!


 分からんことあるから聞きに来たのに、今よりさらに上位の謎一方的にふっかけられた!

 あいつ何やねん!!


(…どぉん!…どぉん!…どぉん!…どぉん!……ッ)


「竜、なんでもっとるんとちゃうんかい!」


 少女は、激しく地団駄を続ける。


 【竜】がその場に座し、何世代にもわたって人々の営みを見守り続けてきたというこの地方のシンボル【竜の御座石みくらいし】が、今年15歳の少女の地団駄でレオ山の山頂にどんどん沈められていく。

 レオ山の麓の人々にとって『信仰の対象』でもある山の風景が、ちっぽけな少女の一時の癇癪かんしゃくによって破壊されていく。


(…どぉおん!…どぉおん!…どぉおん!…どぉおん!……ッ)


「竜!なんでも!っとるんと!ちゃうん!かい!」


 地団駄のリズムに合わせて、少女は断続的にセリフを吐き続ける。


 今や少女の目的は地団駄を踏むことではなく、ちょっとした宮殿ほどもある大きないわ、【竜の御座石みくらいし】を『踏み砕くこと』に変化していた。


 身に着けたものも含めて、体重50キログラムほどしかない少女の地団駄で、地表に出ている部分だけでも全長300平方メートル、厚み最大60メートルにも及ぶ円盤型の大磐おおいわが、見る見るうちに地面の中に沈み込んでいく。

 もう地表に出ている部分は最初の頃の3分の1ほどでしかない。


 しかし、大磐おおいわは砕けない。


(ッ……ずどどどどどどど……どぉん!どぉん!どぉん!…ッ!……どぉぉぉぉぉん!……ッ!)


「クソッタレがぁ沈めぇ!!」


 剣呑けんのんな言葉を吐きながら、少女はダメ押しの一踏ひとふみを【竜の御座石みくらいし】に加えた。


 大磐おおいわは砕けなかった。


 しかし、天然記念物の大磐おおいわ【竜の御座石みくらいし】が、少女の踏みつけストンピングによって地中深く沈められたことで、レオ山の山頂は以前よりも50メートルほど低くなった。



「……まあ、今日はこれくらいにしといたるわ」


 額の汗をぬぐい、いい汗をかいた少女は満足げに、そうつぶやいた。


 レオ山全体のバランスを考えたとき、【竜】がいつも抱きついて眠っていたこの山頂にある『大磐おおいわの形』が以前から気に入らなかったのだ。


 少女の地団駄により大磐おおいわが山頂の地中深くに埋め込まれて無くなった今、レオ山の『形』は以前よりも素晴らしくスッキリしたものとなった。

 と、少女は勝手に自画自賛した。


 その少女の名は【アゾロ・ディオアンブラ】。


 いずれ、世界を終わらせる女である。





…To Be Continued.

⇒ Next Episode.

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