∞14【父の尋問。からの手合わせ】
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「ごっそさま!おいしかった!」
台所で家族と一緒にお昼ご飯を食べ終わったアゾロは、《無限チュートリアル》の続きをやるために椅子から立ち上がり急いで台所の裏口から表へ出ていこうとした。
すると突然、椅子に座ったままの父が、裏口へ走るアゾロの襟の後ろを右手の親指と人差し指で抓み止めた。
伯爵であるとともに『騎士』でもある父の常人離れした指の力は、指先で抓んだだけでクルミの殻を割ることができる。一瞬で襟の後ろを固定されたアゾロの体が襟の後ろを支点に、まるで振り子のように前後に振れた。
親猫が仔猫を運ぶときのようにアゾロの襟の後ろを指で抓んだ父は、娘を抓んだまま手首を返して自分の方に振り向かせながらアゾロに尋ねた。
「……昨夜未明、国指定天然記念物【竜の
『……アゾロおまえ何か知らない?』という視線を送ってくる父。父の目の奥の暗いところに『……知らない?いやおまえは知ってるはずだ知らなきゃおかしい』という言葉が浮かんでいるようにアゾロには視えた。
言葉を途中で切り、無言でアゾロに視線を送り続ける父の無表情が怖すぎる……。
レオ山はディオアンブラ領内とはいえアゾロの家から馬で半日の距離にあり、周辺住民にとって『聖なる山』でもあるので一般人の入山は厳しく制限されている。
普通は『夜中に行って明け方に帰る』なんてできない場所なのだが、父は昨夜なにも言わずにでかけたアゾロを疑っているようだ。
流石に『《スキル》を使って山や丘を“飛び越え”ながらレオ山まで移動した』ことや、『大磐を
突然襟を掴まれてアゾロは父に文句を言おうとしたが、父の言葉の内容と黒い瞳の視線を受けて目を泳がせる。そんなアゾロを、父は至近距離で『じーっ…』っと見つめている。
父になんとか言い訳しようと、アゾロは必死で言葉を絞り出した。
「……ししし知らないなあ……へぇ昨夜未明にそんなことがあったんだぁ……天然記念物を埋めてしまうなんてぇ……悪いやつもいたものだぁ……」
父の凝視から必死に視線をそらしながらシラを切ろうとするアゾロだったが、ウソが下手クソすぎておかしな話し方になってしまっている。
無言・無表情でアゾロの襟の後ろを掴んだまま視線を送り続ける父だけではなく、まだお昼ご飯を食べている母と5歳の
父はしばらく『じーっ…』とアゾロの顔を見ていたが、やがてため息とともに抓み上げていたアゾロをゆっくりと床に降ろした。
そして相変わらずの無表情で父は言った。
「……あいつ前にオレが挑んだ時もバックレたんだよな。……なんかあるとすぐ逃げんだ【
句読点をほとんど使わないような独特の口調で父は淡々と話す。これは人と話す時の父のクセだ。今もアゾロに対して怒っているから淡々としているのではなく、元々から淡々と話す人なのだ。
相手と話すのがめんどくさいのではない。
『自分の話を相手に理解させるようにちゃんと考えながら話すのがめんどくさい』のだ。
『とりあえずオレ話すから内容はそっちで理解してくれ』という感じで人と話す父だった。
要は、『ものすごく
アザロは、この父の性格を子供の頃から嫌になるほど知っている。母もかなりの不思議ちゃんだが、実は家族の中で『この父』が一番問題ありなのだ。
(……ていうか、過去に【竜】に挑んだことあるんだ父)
『この親にしてこの子あり』とは、まさにこれだ。
と、当の本人であるアゾロは他人事のように頭の中だけで考えた。
そんなアゾロに対して父は、
「……一緒に『手合わせ』でもするかーたまに」
淡々と娘に対して脈絡のないことを話す父。
話してる間、一回も娘から視線を逸らさず、自分が思ったままのことを無表情で淡々と話し続けるのが怖すぎる。
騎士…というか、武人…というか、なんでも思った通りに行動する…というか、『すこしバカ』な父には、何でもかんでも肉体言語だけで片付けようとするケがある。そのため、時として他人からしたら『突拍子も無いこと』を言い始めるのだ。
そんな父は娘に対して、指で『ちょっと裏こい』の仕草をして台所にある裏口の戸に向かった。
その途中にある傘立ての中から木剣を一本引き抜いて天秤棒のように肩に担いだ父は、振り向いて娘に「……早く来い」ともう一度急かしてから裏口の戸から家の外へ出ていった。
…To Be Continued.
⇒Next Episode.
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