∞6【わたしの父】

≈≈≈


≈≈≈


 村の名前にアゾロの家の名前がついているのは、アゾロの父がこの村の『領主』だからだ。


 この村だけではなく、正確には近隣に存在する二十四ヶ村を合わせて『ディオアンブラ領』と呼ぶ。アゾロの父は、この国の『皇帝』から爵位と領土を与えられている『伯爵様』である。


 それにも関わらず、ディオアンブラ家の生活は質素そのものである。ディオアンブラ村の村民はアゾロの家族四人だけ。皇帝から与えられている領土と資源を、父は全くと言っていいほど活用できていないというのが現状だ。

 父は伯爵のくせに、『政治』とか『税』とかいう言葉を聞いただけで頭が痛くなる人だ。



 アゾロが生まれる前、当時19歳だった父は先代皇帝から伯爵の爵位を授かった。

 騎士として絶大な功績と名誉を称えて、先代皇帝からアゾロの父に対する格別の措置と言っていい。同時に父は、広大な屋敷建設予定地とその周辺の村々を『ディオアンブラ伯爵領』として下賜された。


 それに対して父は、

『……オレと妻が住むだけなんだからそんな広い土地いらない』

 と、あろうことか皇帝に対して辞退を申し出たらしい。

 その場にいた母がうまくとりなしてくれなかったなら、父は皇帝への不敬罪で最悪死罪を賜ったかもしれない。父は、そういうところバカなのだ。

 結局父は、皇帝からもらった広大な屋敷建設予定地に森の木を切って山小屋を造り、建て増しに建て増しを重ねて現在の二階建ての住居を斧と金槌でほぼ一人で造った。


 近隣の村人から手伝いましょうかと聞かれた父は、

『……こういうの憧れだったんだよねログハウス』

とだけ返し、一人黙々と作業を続けたという。

 父が山小屋を造っている間に、母は近隣の村の宿に泊まり新領土の状況把握に努めた。


 そして、父が一人で造った山小屋に母を迎えて、ふたりは結婚式を挙げた。その当時の気持ちを母は『幸せだったわ』と語る。


 やがて、父と母の二人だけが住む村一個分の広大な『屋敷建設予定地』が、誰言うともなく『ディオアンブラ村』と呼ばれるようになったのである。




…To Be Continued.

⇒Next Episode.

≈≈≈


≈≈≈

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る