∞17【年季の違い】

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 強い風が吹き荒ぶ丘の上で父娘おやこは向かい合っていた。


 父の獲物は『短い木剣』。

 それに対してアゾロの獲物は『長い六尺棒』。


 剣に対する長柄武器の最大の利点は『相手の間合いの外』から攻撃できることである。


 (一方的な)謀略により、アゾロは父よりも長い武器を手に入れてリーチ的に優位に立ったはずだった。



 しかし、この時点で父は二つの地理的な面でアゾロよりも優位に立っていた。


 一つは、アゾロよりも先に家を出発し丘の上にたどり着いたことで、アゾロより父の方が『高所』に陣取っていること……。

 そして、もう一つは丘の上から吹き下ろす強風によって、丘の下にいるアゾロに『向かい風』が吹いてくること……。


 このあたりは、昼過ぎになって太陽が西に傾き出すと朝とは真逆の方向へ風が吹く。

 麓から丘の上の方へ吹き上げる風から、丘の上から麓の方へ吹き下ろす風に急激に変化するのだ。



 父がいる丘の上から吹き付ける強い『向かい風』が、風下側に立つアゾロの赤い髪や着ている衣服をなぶる。長大な六尺棒をこの向かい風のなかで振るうのは、アゾロにとっては至難の業となる。


 ……もし父がこのタイミングを狙って作り出したとしたら、やはり父こそ『歴戦の騎士』と呼ぶべきだろう。


 丘の上で立ちはだかる父は物理的に高所に位置しているというだけではなく、武人としてもアゾロよりもはるか高みに立っているようだ……。


「……やるわね」


 アゾロは普段ぼんやりしているように見える父に対して、自分の見解を改めた。

 

 アゾロは『年季の違い』という日々の努力だけでは埋められぬ絶対的なモノを、風が吹き荒れる丘の上に立つ父に感じていた。



…To Be Continued.

⇒Next Episode.

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