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…温度を…、
「くじらさん! ああゆうやつは反省なんかしないってパパが! トドメをささないと!」
温度…あれ?
「くじらさん! 離してください!」
あれあれ?
こんなにいい雰囲気? をものともせずなおも腕のなかで暴れるユリちゃんに、ジャンキー男を横目で窺うけど、
「お嬢ちゃん、やりすぎだら」
もはや浜辺に突っ伏した男はまさに虫の息だ。ヒュウヒュウ荒い呼吸が口から漏れている。いったい釣竿でどれだけ突き刺せば大の男があそこまでなるとゆうのか、女子…いや、ユリちゃんこわい。
釣竿の旦那がそばに膝をついてようすを確認しているが肩をすくめる。
あの、ユリちゃん、
「いきてかえすまじ!」
どこでそんなセリフ覚えたんですか? それよりユリちゃん、
「はっ、仲間が近くにいるかもしれませんよ! 吐かせましょう!」
ユリちゃん、ユリちゃん、
どっかにいってしまわないようにぎゅうぎゅう腕に閉じ込めて思う。
あぁ…
目を閉じて天を仰ぐ。
ドン パーン パラパラパラ
あぁ…
花火の振動を肌に感じながら悟る。
ユリちゃんをこの腕に抱き込むことができるのは、オレだけだろう。
ひまわりみたいに笑いユリのような香りがする、凶暴に感情が暴走するこの姫君を抑えるこうことができるのは。
「ユリちゃん、」
「くじらさん! 離して、」
「ユリちゃん、」
「…はい?」
口を尖らせてやっと、オレを見上げてくれる。なんですか、わたしは忙しいんです、て、顔で。
短い花火大会はそろそろフィナーレを飾るようで、気を違ったように金色の花を咲かせている。
ユリちゃんの泣き顔を花火の灯りが照らす。
汗と涙でぐちゃぐちゃで、愛おしい。
こんなオレが…
まだユリちゃんの腰ほどもないガキのころだ。母親から逃げるため刺し殺した、こんなオレのために必死になって。
しかもこんなオレよりはるかに恐ろしい。
こんなユリちゃんに責任をもてるのはこんなオレだけだ。だから、
大きく息を吸う。
「ユリちゃんを、オレにください」
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