ベティちゃん誘拐殺人事件

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 波が岩礁に打ちつけては砕けて巻いてゆく。


 朝 八時。逗子のタイドは、引き。


 弄ばれるみたいに、見知ったものが波間に現れては消える。


 腕、背中、たぶん脚、の、骨。と、


 『ヤン』


 友だちのネームが刺繍された、体操着。


 「と、ゆうことは、」


 ぼくのとなりで、ぽつり、シュウが呟いた。牛乳瓶の底みたいな黒縁メガネを、忙しなくいじっている。


 「あれ、だね」


 また別のとなりから、ハルカが呟きが落ちてくる。

 背が高いから、ハルカの呟きはいつもぼくの上から落ちてくる。


 「…いこう、」


 体操着から目を引き離すみたいに顔を上げて、ぼくは踵を返した。




 ぼくはただ、ベティちゃんを盗みだして、て、頼んだはずだったのに。

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