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 ノイズの合間を縫って崩れる波の音が入る。


 いい波だ。


 はるか南海上には秋の台風。

 大潮、満潮手前、オンショア。

 白浜海岸の少し東側、白浜神社の裏では美しい地層の岩礁に猛る波が喰いかかるように押し寄せては、岩を食いちぎるようにして砕けているに違いない。


 チャンスは満潮二時間前から一時間。


 花火のはじまる三十分まえだ。


 台風のうねりと大潮、サイドオンの風で海は荒れてくる。


 ザザ ザザ


 イヤホンからあがりはじめた風の音が入る。


 *


 「おとうと…」

 「はい、ぼくは兄です」

 きのうの晩、大浴場で会った少年はそう歯を見せた。

 「双子なんです、」爪木崎でおどおどしていたガキと同じ顔で。


 「おなじホテルだったんですね」

 弟とは違う、人見知りも尻込みもしない強気な聡明さが滲みでている。


 「なにかの縁ですね」

 こんな少年がどこでそんなことばを覚えるんだろうか(下田界隈は家族連れの宿泊できるホテルが二軒ほどに絞られる、縁とゆうには高い確率だ)。

 賢いこの兄貴なら、弟がなにをしようとしていたかもわかっているに違いない。

 「おじさんには、バレたかな、て思って」

 そうだな、だから咎めようなんてオレは思わないが。

 子どもが親を殺そうとするなんて、それなりの理由があるだろう?


 「そうなんです、弟だけ母に殺されちゃって、生まれるまえに、」


 堕したのか、あのガキだけ。

 おまえが残ったのは、


 「かきだしたお医者さんが、見落としただけです、ぼくを。それで、おじさん、」


 利発そうなその笑顔はきっと、大人にものを頼む態度を弁えている。


 「母を殺すのに、弟についてやっていてくれませんか」


 *


 「あ、あの、」

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