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 *


 「あ、あの、」


 どうしよう、て、震える声。風に重なってかき消されちまいそうだ。


 なぜ兄貴がついていってやらないのか。おそらく兄貴は身体を弟にかしているんだろう。生まれるまえに死んでしまった弟に身体はないのだから。


 では死んだ弟のなにか霊魂のようなものが残っていたのか? そんな安っぽい小説みたいなはなしはない。


 きっとあのガキの正体は、


 「大丈夫だ、オレがついてる」


 不意によこから、ワルイオニイサンの声が入る。


 「膝と腕は軽く曲げる、正面をむく、そうだ。まだトリガーに指はかけるな」

 「朧月、」

 「お、どうだよ、花火デートは」


 朧月だ。


 オレはガキについていてやれない、デート真っ最中だ。ましてや殺しは専門外だ、なんの助けにもなれない。

 そこは頼りになる朧月に事情をLINEをしたわけだが、

 『引き受けたのかよ』

 『子どもが苦しんでいる』

 『むかしを思い出した?』

 『忘れたことなんてない』

 『これでおまえが忘れられるなら付き合うよ』

 と、ガキの子守り役を引き受けてくれた。


 それなのに!


 「撃つなよ、面倒だ」

 「わかってる、脅すだけだろ? で、海にドボン! つまんねぇな、おまえもバーンとやっちまいたいだろ? 海に沈めば死体なんかあがらないよ?」

 「え、えぇと、」


 泣きそうなガキの声が入る。

 どうやら人選を間違えたかもしれない。


 「リミットはあと三十分。ぐずぐずしていると潮があげてくる。おまえも海に引き摺り込まれる」


 「ここから見るのが一番いいのよ、漁港までいくと混んでてダメダメ」

 「そうなんですか、」

 となりにシートを広げたおばさんと談笑するユリちゃんの隙を見て、早口に促す。


 それに、

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