15
*
「あ、あの、」
どうしよう、て、震える声。風に重なってかき消されちまいそうだ。
なぜ兄貴がついていってやらないのか。おそらく兄貴は身体を弟にかしているんだろう。生まれるまえに死んでしまった弟に身体はないのだから。
では死んだ弟のなにか霊魂のようなものが残っていたのか? そんな安っぽい小説みたいなはなしはない。
きっとあのガキの正体は、
「大丈夫だ、オレがついてる」
不意によこから、ワルイオニイサンの声が入る。
「膝と腕は軽く曲げる、正面をむく、そうだ。まだトリガーに指はかけるな」
「朧月、」
「お、どうだよ、花火デートは」
朧月だ。
オレはガキについていてやれない、デート真っ最中だ。ましてや殺しは専門外だ、なんの助けにもなれない。
そこは頼りになる朧月に事情をLINEをしたわけだが、
『引き受けたのかよ』
『子どもが苦しんでいる』
『むかしを思い出した?』
『忘れたことなんてない』
『これでおまえが忘れられるなら付き合うよ』
と、ガキの子守り役を引き受けてくれた。
それなのに!
「撃つなよ、面倒だ」
「わかってる、脅すだけだろ? で、海にドボン! つまんねぇな、おまえもバーンとやっちまいたいだろ? 海に沈めば死体なんかあがらないよ?」
「え、えぇと、」
泣きそうなガキの声が入る。
どうやら人選を間違えたかもしれない。
「リミットはあと三十分。ぐずぐずしていると潮があげてくる。おまえも海に引き摺り込まれる」
「ここから見るのが一番いいのよ、漁港までいくと混んでてダメダメ」
「そうなんですか、」
となりにシートを広げたおばさんと談笑するユリちゃんの隙を見て、早口に促す。
それに、
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