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 「きゃぁあ!」

 「なになに!」


 見物客がそれに気づいて騒ぎはじめる。


 「なんだおみゃあそれ、」


 危ないっ


 近くにいた漁師らしきおじいちゃんが飛びだそうとして、


 「ぎゃぁぁぁあっ!」


 は、


 汚い叫び声に足が…オレも…とまる。


 「ほらいた、母ちゃんだ、いけ」イヤホンの向こうで朧月がガキをけしかけるのが耳骨に振動する。


 (どうやら呼びだした場所…白浜神社裏の鳥居…に、ガキの母親が現れたらしい。

 双子の件ではなしがある、て、呼びだしたのはオレだけど、はなしがあるのはあのガキだ)


 彼はいま、朧月に教えられた通りの姿勢でハンドガンを構え、母親に対峙してるに違いない。


 十数年まえに、包丁を手にそうしたオレと同じように。


 「いけ!」

 煽られるのに、それなのに、尻ポケットのナイフにのばした手が動かない。


 ハンドガンを手に震えるガキを、

 十数年まえ、包丁を手に母親をまえにしたチビを、


 朧月がけしかけるのに、


 「なんで弟を…ぼくたちを堕しちゃったんだ!」

 「くじらさんの背中に! なにしてくれんですか!」


 いま母親を海に突き落とそうとしているのは聡明で頼りになる兄貴で、


 オレに代わりジャンキーを処分しようとしているのは、


 「あっちへいけ! あっちへいけ!」


 前後不覚になったユリちゃんだった。

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