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*
「はは、ユリちゃん、がんばったね」
とりあえず図書室に避難して、
「あぁ、もう、どうしよう、わたし、恥ずかしい!」
朧月が笑う横で、ユリちゃんは顔を真っ赤にしている。たぶん、恥ずかしいですむ反撃じゃなかったけどまぁいいけど。
「で、なんであんなとこから登場したわけ? 帰ったんだと思ってたよ?」
ユリちゃんの肩やら頭やらについたさつきの葉を取りながら、朧月は愉快そうだ。
「あ、あのひとが通らないかな、て…」
「食堂を?」
「あ、嘘です。くじらさんが心配で、」
「…、心配してくれたんだ? こいつの」
「その、やっぱりなにか、あったんじゃないかな、と、思って、」
て、もじもじ、下を向いてしまう。
「あの、あの、優しいひと、て、」
いまにも泣きだしそうだ。
「…たいへんなことが、」
ポツリ ポツリ
「多いじゃないですか…」
ユリちゃんのこぼすことばが、
気持ちの奥に沈んでいた澱をとかしてゆく。
「だから、わたしが、」
ユリちゃんがゆっくり顔を上げる。目に涙の膜が張ってきらきらだ。
「そばに、い、れたらいいな、」
観念する。
「…て、思うんです」
困ったような、それ以上にうれしいような朧月の目と、目が合う。
ユリちゃんの、いろんなものがないまぜになった泣き顔に、
オレは『あのひと』のハートを盗みだした。
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