3

 *


 「はは、ユリちゃん、がんばったね」


 とりあえず図書室に避難して、

 「あぁ、もう、どうしよう、わたし、恥ずかしい!」

 朧月が笑う横で、ユリちゃんは顔を真っ赤にしている。たぶん、恥ずかしいですむ反撃じゃなかったけどまぁいいけど。


 「で、なんであんなとこから登場したわけ? 帰ったんだと思ってたよ?」

 ユリちゃんの肩やら頭やらについたさつきの葉を取りながら、朧月は愉快そうだ。


 「あ、あのひとが通らないかな、て…」

 「食堂を?」

 「あ、嘘です。くじらさんが心配で、」

 「…、心配してくれたんだ? こいつの」

 「その、やっぱりなにか、あったんじゃないかな、と、思って、」


 て、もじもじ、下を向いてしまう。


 「あの、あの、優しいひと、て、」

 いまにも泣きだしそうだ。


 「…たいへんなことが、」


 ポツリ ポツリ


 「多いじゃないですか…」


 ユリちゃんのこぼすことばが、


 気持ちの奥に沈んでいた澱をとかしてゆく。


 「だから、わたしが、」


 ユリちゃんがゆっくり顔を上げる。目に涙の膜が張ってきらきらだ。


 「そばに、い、れたらいいな、」


 観念する。


 「…て、思うんです」


 困ったような、それ以上にうれしいような朧月の目と、目が合う。


 ユリちゃんの、いろんなものがないまぜになった泣き顔に、


 オレは『あのひと』のハートを盗みだした。

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