2

 「盗めそうか?」


 一気に食べてしまうのがもったいなくて箸をおく。

 朧月の問いに、俯く。


 「盗んでいいかなぁ、て?」


 そう、きっと、盗んではいけない。


 傘を平気で盗むやつなんて、ユリちゃんをしあわせにできるとは思えない。


 けれど、


 朧月と食堂をでる。


 これは仕事だ。盗品について依頼主がどうするか、口をだす権限はない。


 「お! きょうも来てたじゃん、あの女!」


 いや、いっそ、


 「ヤったんだろ? どう? 紹介してよ、あんな顔してけっこうヤリ●ん…」


 ふりむきざまに思い切り拳をふりかぶる。


 が、


 「ダメです! くじらさん!」

 背後の茂みからなにかがとびだしてオレの腰にしがみついた。


 体制を崩してたたらを踏む。


 その隙をついて相手が拳をふり、それが顎に入る。


 視界の端で朧月が右手を引くのが見える。


 が、それよりはやく、


 「ぎゃあ! いて、いてぇ!」


 相手が、顔を覆ってその場に蹲った。


 なんだ⁉︎


 「あっちいけ! あっちいけ! あっちいけ! バカぁ!」

 「ちょ、ユリちゃん!」


 ユリちゃん⁉︎


 あわててふり向くと、ユリちゃんが、砂やら砂利やら…いかにも殺傷力ありますみたいな石まで、を、豆まきのごとく相手に投げつけていた。


 「ユリちゃん、ユリちゃん! まずい、センセーきちまう!」


 朧月がむりやり押さえつけるまでその奇襲はつづき、相手はうつ伏せのまま、動かなくなっていた。


 うそだろう?

 女子、こわ…

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