5

 「奥さん! 危ないよぉ!」


 小径をあとからやってきたおじいちゃんが叫ぶのにユリちゃんが反応する。

 「なにかしら、」

 ユリちゃんがオレの腕をすり抜けて走りよるのをあわてて追いかける。デート中だしレクサスの件もあったし、あんまりオレからはなれないほしい。


 「あら! あらあら!」

 ユリちゃんが背伸びして崖の下を覗き込むからやっぱり失礼ながらお腹に腕を回してあわてて抱き込む。ユリちゃんはなにかと危なかっかしい。そこもかわいいんだけど。


 「あれ! くじらさん!」

 崖下には、柱状節理とやらをぐるりとめぐる散策路がまいていて、そこには、


 「ちょっと奥さん! 危ないってぇ!」

 散策路のロープから身をのりだしている女性がひとり。


 「あのひと、危ない」

 十数メートル下の海に落ちないまでもロープを越えて崖下の岩礁に転落すれば怪我では済まない。


 女性の伸ばす腕のすぐ向こうには木の枝に引っかかって揺れるハンカチ、のようなもの。それからその背後には、


 「高かったんだからこれ! あんたはほんとにもう! ろくなことしないわね!」


 金切り声にか、

 じぶんがこれからすることにか、

 縮こまるガキがひとり。殺意はどうやらあの子どもからだ。


 巻き込まれたらたまらない。あとはあのおじいちゃんに任せて、

 「くじらさん! あのひと、落ちちゃいそう!」


 〜っ…

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