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 「あ! あ! うしろ、黒のレクサス、パパとおなじ車!」


 ユリちゃんのパパさま、ずいぶんいかつい車にのってるんだな。


 「さっきからついてきてる気がする。まさかパパ?」


 え、なにそれやめて。


 ユリちゃんが座席にのりあげてうしろを覗くのを、


 あ、


 とりあえずパパさまじゃなかったことに安堵するけど、


 「あら、あれ拳銃、くじらs」


 失礼ながらあたまを掴んで乱暴に胸に抱き込む。


 ジャンキーな殺意。バックミラー越しに、レクサスの助手席から粗悪な拳銃が覗くのが見える。これはこれで面倒だ。


 先週片付けた新規顧客から受けた仕事のリストをあたまのなかに引っ張りだす。


 港湾の積荷に隠されたクスリ。

 検疫所に保管された八本足のでかい生き物。

 なんとか大臣愛人のスマートフォン。

 弁護士事務所の机に積まれた裁判書類。


 どれも我ながら完璧に納品した。口止めか。


 多くはお得意さんだが新規顧客にはまれに、実行役を消して口封じをしたいやつらも存在する。


 せっかくの、デートだとゆうのに。


 山道に慣れていないのか運転がだいぶ乱暴だ。撃つタイミングを測れずにいる。


 思いきりアクセルを踏む。

 離されまいと向こうも速度を上げてくる。


 ギリギリのスピードで手前のカーブを抜ける。


 抜けたすぐにまた大きく海側へせりだしたカーブがつづく。


 R= 約八十、下り勾配九パーセント。


 「きゃあぁ♪」

 胸のなかであがるくぐもった叫び声がくすぐったい。


 遠心力をふりきるように思いきりハンドルを切って戻す。


 ガンッ


 後方を窺う間もなくカーブのうしろは法面で見えなくなる。


 叫ぶようなブレーキ音と金属音だけでレクサスが海に落ちたことを確認する。


 「やった! やった、くじらさん!」


 腕のなかからユリちゃんが顔をだす。


 「うしろの車、海に落ちちゃいましたよ!」


 あ、しまった、ちょっと乱暴なとこを見られてしまっ…、


 「くじらさんを煽るなんて! 百年早い!」


 …ユリちゃんが喜んでるなら、まぁいいか。


 「ガンガンいきましょう!」


 ユリちゃんとならどこだってなんだって虹色だ。

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