2
*
「お金はないんですけど、そのかわり、毎日、お弁当、届けますから!」
きのう、突然現れ、
『かのひとのハートを盗んでほしい』
などと叫びだした女子高生…全日制一年のユリちゃん、は、オレの返事を聞きもせず、勝手にはなしをすすめだした。
「そのひと、名前は、わからないんです」
あれ? オレ引き受ける、て、いった?
「…特徴は?」
朧月が訊いても、
「すごくステキなひと、です」
ユリちゃんはただ、じぶんの世界へと旅だってゆく。
「外見とかさ、」
「背がすごく高いです、一八〇は軽くある、かなぁ」
まわりを窺う。食堂にいる1/3はあてはまる。
「ガッシリしてて、スポーツ狩りで、キリッとしてて、『スラムダンク』の三井さんが大きくなって無愛想になった感じ、かなぁ」
『スラムダンクの三井さん』はわからないけど、それでも絞るのはむずかしい。背が高くてガタイがよくて短髪で無愛想なら、オレだってそうだ。
「けどちょっと、抜けててぇ。駅前のセブンで、こないだの雨の日、」
学校最寄駅のセブンだろう。それも、ここの生徒ならみな使う。
「傘を、お会計忘れてお店でちゃったんですよね。かわいいですよね、きゃぁ!」
さいごの、かわいい、のところでユリちゃんは両手で顔を覆って足をバタバタしはじめた。
突然の雨にコンビニの傘を『お会計を忘れて』持ちだしちゃうのも、ここの生徒ならだれでもやるだろう。オレもやる。
「学生さんなのかな、て、あとをつけたら、」
あとつけたんだ…女子こわ。
「ここの、定時制の生徒でした!」
いま食堂にはいないんだろう。残念だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます