2

 お巡りさんが用意した偽物パスポートでヤンはアメリカへいってしまった。

 ぼくたちもヤンも泣いたけど、

 「アメリカなら難民として暮らせる」

 ヤンのパパも泣いていた。きっとぼくたちとは違う理由で泣いていた。


 *


 「あんな華麗にベティちゃんを盗むなんて、パパだけよ?」


 たしかに、鍵を開けた形跡すらなかったんだ。


 「パパの仕事は芸術的よ、ね? パパ」

 語尾にハートがついてる。

 パパはママに褒められたときだけ小さく笑う。

 「あのさぁ、ママ」

 「なに? はい、これ運んで」

 「パパにクマのぬいぐるみをだされたことってある?」

 「クマ? うちにクマなんかいたかしら、なんで?」

 「ごめん、なんでもないよ」

 背中に視線を感じて、あわてて首をふった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る