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 まだ子どものころに母親を捨てた。


 父に離婚された母は夫に妻が求めるもの…それこそそのすべて…をオレに求めてきた。


 潰される。


 こわくなって母親から逃げた。


 それから泥棒をして生きている。


 唯一の肉親を捨てた。優しくなんて、


 「くじらさん、大丈夫ですか?」


 え?


 目を瞬く。丸い目が心配そうにこちらを覗き込んでいる。


 あ、


 小さく首をふるけど、朧月が、静かに頷いた。「そうなんだ、」


 「そうなんだ、ユリちゃん。くじらさん、優しいんだ」


 だから、て、頭に手をやる。

 「お団子にしたのも、気づいてるよ?」

 朧月のいたずらな笑みに、ユリちゃんは耳まで真っ赤にして、肩をすくめた。


 気持ちがふわふわ、少し、軽くなった気がした。

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