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 …


 これだけヒントがあればすぐ見つかる、と、踏んでいたのに。ユリちゃんの『あのひと』は、一向に姿を見せなかった。


 そのあいだにも、ユリちゃんの惚気を聞かされ、アクセサリーやヘアスタイル、ネイル? とやらの感想を求められ、果ては弁当のアンケートまで協力させられる。


 期限は刻々と迫るのに、ハートを盗むどころかターゲットさえ現れない。


 「駅前セブンを愛用」

 「ユリちゃんの目がきらきらする」

 「ユリちゃんが弁当を渡す」

 「ユリちゃんのストーカー被害にあっている」


 「…お前、傘、万引きするのみ見られてたよな」


 人聞きが悪い、泥棒が依頼もなくものを盗むはずないだろう。あれはお会計を忘れただけ…あれ?


 朧月と目が合う。


 *


 「好きな人のことはなせないって、すっごく、つらいじゃないですか! ストレス、ストレス!」


 きょうもユリちゃんは絶好調だ。


 「なんてゆうか、もう、気持ちがぶわぁ! て、あふれて、口からなだれてきちゃうんですよ! だれかにはなさずには、いられないってゆうかぁ」


 しあわせでらたまらない、て、こんなに素直な女子高生の、オレがパパならやっぱり反対する…それが偏見でもなんでも。


 「くじらさんに会えて、ほんとによかった! 聞いてくれてうれしいです!」


 ひとしきりはなして、ユリちゃんはいつもそうやって笑う。それから、あぁ、もう、恥ずかしい! て、ひとりで騒ぐ。むずむずする。


 「くじらさんは、やっぱり優しいんだと思います」


 けれど同時に、気持ちが疼く。


 「お弁当ひとつで、優しすぎですよ」


 優しく、ない。

 優しさのかけらもない。


 「くじらさん、て、なんでもはなせちゃいますよね、」


 優しくなんかない。

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