第32話
小林と朝倉は、近藤から渡された装備品を確認していた。
基本的なものに加えて気になるものがいくつかあった。
「これなんですか?」
朝倉が、スプレーのようなものを掲げて質問した。
「それは臭い消しじゃないか?ほら、裏に書いてある。」
小林が答える。
「臭い消し?」
「ああ、匂いで自分の居場所が敵にわかってしまうだろう?」
「ああ、それで・・・。」
「しかし便利な時代になったな、昔だったら匂いを消したかったら、
泥を塗りたくってさ・・・、まあいいや。」
「あれ?」
「なんだ?」
「水筒がない。」
朝倉が、バッグを探っているが基本装備であるはずの水筒がどこにもない。
「・・・ここは実践を知っている舞台なんだな。それか一回痛い目を見たか。」
「どう言うことですか?」
小林は自分の言っていることに対して一切理解していなさそうな朝倉の顔を見て笑うと、
「ずっと、教わってばかりだったからな・・・、久しぶりに講義をするか。」
***
戦闘時における基本的なことはすでに教えた。
ストーンピットブルを倒すためにな。
今度は、戦場における基本的なことを朝倉に教える。
「戦場において絶対に避けなければいけないことは何かわかるか?」
「死ぬことですか?」
「違うな、むしろ現場復帰が不可能でこのままだと仲間に被害が出ると判断した場合、俺は自決するな。」
「え・・・?」
「嘘だと思っただろう?だがこれが戦場のリアルだ。昨日まで同じ釜の飯を食ってたやつを見捨てないといけない時だってある。」
小林は過去の仲間の姿を思い浮かべながら、淡々と言った。
その言葉を聞き、朝倉は唾を飲み込む。
「そうならない為にはどうすればいいと思う?」
「え?戦闘が起きないようにするですか・・・?」
「はっはっは。」
小林は朝倉の回答を聞き笑うと。
「だってそれしかないじゃないですか!?」
と、耳を赤くしながら叫んだ。
「いや、ほぼ正解だよ。」
「え?」
「敵に見つからなければいいんだよ、そうすれば戦闘も始まらないだろう?」
「・・・確かに。じゃあどうやって敵に見つからないようにするんですか?」
「逆に聞くが、敵に見つかる時とはどんな時だ?」
「えー・・・。」
朝倉が、頭を掻きながら悩む。
「さっきの装備に水筒がなかっただろう?」
「はい、なんでかなと思いました。」
「水筒をリュックにつけた状態で走るとどうなる?」
「えー、ちゃぽんちゃぽんって音が・・・、音?」
「そうだ、音だ。」
***
小林は、森の中を一人歩いていた。
顔は泥まみれになり、靴底はかなり歩いてきたからか、
すり減りほとんど溝がない状態で、足跡がつかないぐらいだった。
水筒の中身も空っぽで、食料も尽きていた。
持ち合わせている武器は、ナイフとハンドガンのみであった。
意識朦朧の状態で幽霊のように歩いていた。
音は全くせず、真横を通り過ぎてもほとんどの人間は小林の存在に気づかないだろう。
ちゃぽん
明らかに自分が発した音とは違う音が聞こえた。
小林はすぐに伏せの体制をとった。
敵兵であった。
このまま敵に気づかずに遭遇していればおそらく小林はそのまま殺されていたであろう。
20メートル先にもう敵兵はいる。
しかし、完全に自然と同化していたため、不審に思うこともなくそのまま去って行った。
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