第12話

弱者が強者に勝つためには、正攻法で戦っても無理である。

いかに汚く、泥くさい戦いに持ち込むかが肝だ。

そして最も重要なのは、弱者側の士気だ。

とある大国は、圧倒的な戦力差にも関わらず

相手の狂気じみた士気の高さに想定外の苦戦を強いられた。

逆に大国側の兵士たちは自分たちが何のために戦っているのかわからなくなっていた。結果その戦争では、大国側は勝つことができなかった。いやむしろ負けたと言ってもいいだろう。

奇しくも俺はその戦争で味方の勝利を見ることなく命を落としてしまったのだが・・・。


「全員配置についたか。」

稲川が、鋭い眼光をストーンピットブルの群れに投げつけ言う。

「いつでも行けます。」

朝倉は、いまかいまかと突入を待っている。

そこには、ストーンピットブルの前で震えていた男の姿はなかった。

稲川は、深く深呼吸をした。

「攻撃開始。」

その号令とともに、無数の弾丸がストーンピッドブルを襲う。

運良く、数体仕留めることができた。

奇襲は成功だ。本番はここからだ。

ピットブルが我々の存在に気づいた。

「小林くん達頼むぞ。」

「了解。」

と答えナイフを構える。眼前には目を真っ赤にしたピットブルが涎を垂らしている。

ピットブルの数は残り5体。

一歩足を進めた瞬間。

眼前からピットブルのが消えた。

「どうせ首だろ。」

ピットブルの頭が足元にゴロがる。

残り4体。

ピットブルの攻撃パターンはもう読めていた。

こいつらは相手が動き出した瞬間に首を噛みちぎりに行く。

ならば、攻撃の動線も読める。俺はそこにナイフを通しただけだ。

まあ、こんな芸当できるのは俺か稲川さんだけだが・・・。

ストーンピットブル達は、何が起きたのかわからない様子だ。

「お前ら、配置につけ。」

号令とともに、5人1組の小隊が一体のピットブルを囲む。

ジリジリと間合いを詰める。

俺の攻撃が効いているのか、ピットブル達は警戒して、

なかなか攻められない。

ハッタリでスピードという圧倒的な優位性を完全に殺すことができた。

1発の弾丸がピットブルに放たれる。

それをかわすと、弾丸が放たれて方向に目を向けた。

その瞬間一人の兵士が、ピットブルに攻撃を仕掛ける。

反射的にその兵士に噛み付く。

兵士はかわさずに腕を差し出した。

「今です!」

その言葉を合図に残りの4人の兵士が

ナイフでピッドブルを突き刺す。

何回も何回も、絶命したことが確認できるまで。

他のピットブルがそれを見て助けに向かおうとするが、

「敵に背を向けちゃいかんでしょう。」

朝倉が、ピットブルの背にナイフを突き立て、その動きを抑えた。

そのまま、ピットブルを仕留めた。

残るピットブルを睨みつけ、挑発するようにナイフを振り回した。

ピットブルがそれに誘われて襲いかかる。

「ぐっ、小林さんみたいに上手くいかないな。」

朝倉は自らの腕にピットブルを噛み付いつかせる

と同時にピットブルの首元に朝倉のナイフが突き刺した。

残り一体となったピットブルは、逃走を図ったが、

次の瞬間、その脳天を1発の弾丸が撃ち抜いた。

「さすがですね、稲川さん。」

「ごめんね、美味しいところ持って行っちゃって。」

ピットブル全てを仕留めて、兵士たちは緊張が解けたのか腰を落とした。

しかし朝倉は、警戒を一切解くことはしなかった。

「稲川さん、周囲の状況は。」

「問題なし。」

「任務完了だ、みんなよくやったな。」

朝倉はその言葉を聞いて、やっと警戒を解いた。

「仇はとったぞ・・・。」

朝倉は、空を見上げつぶやいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る