第11話

「攻撃とは、相手の動きを封じ、こちら側に有利な状況を作り出し、

敵を撃破することである。細かい戦術や戦法は色々あるが、目的はこれだ。

何を当たり前のことをと思っただろう。

だが残念なことにここにいるほとんどの人間はその当たり前のことがわかっていない。

じゃなかったら、小林くんが構えだけで君たちに何時間も使って教える必要はなかっただろう。

さてだ、小林くんが君たちに教えた構えについてのおさらいだ。

そこの君、教えてもらった通りに構えてくれ。」

一人の兵士が、稲川に対峙する形で構える。

「まあ、及第点ってとこだな。聞くが、なぜそのように構えるのだ?」

「それは、相手に間合いを悟らせないためです。」

「なぜ、間合いを悟らせてはダメなのだ。」

「相手が、防御しやすいから?」

「防御しやすいとどうなるんだ?」

「こっちが不利に・・・あ!」

「気付いたかい、完璧な構えはそれだけで攻撃にもなるのだよ、

だから小林くんは最初にそれを君たちに教えたんだよ。」

「そうなんですか?」

一人の兵士が、小林に聞く。

小林は黙って頷く。

「小林くんが教えたのは個人が戦う時の構え方だが、軍にも構えというのは存在する。それは用兵思想とも呼ばれたりするが、その話はまた今度だ。今は目前の犬っころたちをどうするかだ。」

「相手の動きを封じるにはどうすればいいのですか?」

兵士の一人が聞く。

「よく聞いてくれた、相手の動きを封じ多ければ、相手から選択肢を減らしてくか選択肢を増やしていくことだ。」

「選択肢を増やす?」

「そうだ、例えばだな・・・、お前なんか喋れ。」

「え?何かって・・・えーと・・・。」

「はい、遅い。」

「いや、そんなすぐには難しいですよ。」

「そうだな、これが選択肢を増やすということだ。人間に限らず、どんな生物にも容量というものがある。その要領を超えると、不思議なことに何も出来なくなってしまうんだ。今の君みたいにね。」

「相手を囲うのもそのためですか?」

「その通りだ、前だけじゃなく後ろの敵も考えないといけないそうやって、行動の選択肢を増やす。そうするとどうなるか、間違った選択をする時が出てくるんだ。」

「そこが攻め時ということですか?」

「その通り。そこで敵を撃破するんだ。だがそこで攻めあぐねていたら、好機を逃し結果死ぬことになる。」

兵士たちの目が泳いだ。

「君たちに死ぬことを恐れるなとは言わない、だが、敵を前に臆するな。」

稲川の兵士たちへの檄をもって、座学の時間が終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る