第13話

朝倉が、医務室で寝ている、小林はその横に腰掛けた。

「俺も目の前で仲間が敵に殺されたことがある。

最初は震えた、でもその震えは恐怖ではなく怒りから

くるものだった。敵に対してではなく弱い己に対してだ。

もしお前が、己の未熟さを恨んでいるのならば大丈夫だ。

それと30年以上向き合った男を俺は知っている・・・。」

朝倉は、目を瞑ったままだ。

「聞いちゃいないか・・・。」

そう言い、小林は部屋を出て行った。


けたたましいエンジン音を吹かせながら、護送用のトラックがやってきた。

「皆ご苦労。」

頭にハチマキをつけティアドロップのサングラスをかけた、

ガタイのいい大男がトラックから出てきた。

「稲川さんこの人誰ですか?」

「あー小林くんは初めてか、彼は橋下中尉だ。」

「橋下中尉。中尉という事は・・・。」

「ああ、私より階級は上だ。残念なことにな。」

「残念とは何だ、お前が全く昇進できないのは、その戦闘狂なところが原因だろうが。」

「俺は、地図と睨めっこするより敵を睨んでいる方が性に合っているんだよ。」

「はあ・・・、まあいいや、お前らその犬っころたちをこのトラックに乗せてくれ。」

橋本は、疲弊している兵士たちのこともお構いなしに指示を出した。

「え?これ何かに使うんですか?」

朝倉が橋下に聞いた。

「知らんのか?魔物や魔獣は加工することで強力な武器や防具になるんだぞ。」

「そうなんですか?」

「そうさ、そもそも我々の戦いの元々の・・・、いやこの話は今はいいか。」

「何ですか?気になりますよ。」

そんなやりとりしている間に、

ストーンピットブルの遺体を肩に担ぎ、小林は次々とトラックに乗せていく。

「図体の割に意外と軽いな・・・。朝倉、あそこに転がっている頭とってきてくれないか。」

「え?あ、はい。」


「稲川お前か、犬っころの頭切り落としたの?」

橋本が稲川に聞く。

「いいや、小林くんだよ。突進してくるところに合わせてズバッとね・・・。」

稲川は嬉しそうに答える。

「へえ、そんな芸当できるのは、斎藤さんぐらいかと思ってたが・・・。」

「ああ、俺も斎藤さん以外で初めてみたよ。」

「お前はできるのか?」

「さあ、どうだろうね。もしかしたら、彼みたいに腕一本犠牲にしてしまうかもしれないかな。」

そう言い稲川は朝倉の方を見た。

「え、僕が何ですか?」

「いいから、早く運べ。」

「はいっ」

朝倉は、小林のところに走って行った。

「小林、ありがとう。」

「なんかお前に言ったか?」

「はははっ、いや覚えてないならいい。」

「よし、全部積み終わったな。お前ら全員乗れ。」

橋本が、号令をかけると、兵士たちはトラックに乗り込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る