第14話

「撃剣訓練所 試誠館道場」空志野演習場の一角にそれはある。

”撃剣”という名の通りこの場所では日々兵士が剣術の訓練を行なっている。

道場内には、大小様々な武器が壁にかけられていて、訓練兵はその中から

各々選んで訓練に励んでいる。

全国から強さを求めてこの場所に来るものたちが多くいるが、

そのほとんどは2日目以降来ない。


道場の中で、一人の男が素振りをしている。

「斎藤さん、お久しぶりです。」

「稲川か?珍しい顔だな。ん?その横の小僧は誰だ?」

「小林です。初めまして。」

「小林・・・、あー例の・・・。」

斎藤は、小林を品定めするような目で見つめる。

斎藤は、ニヤリと笑うと、木刀を一本小林に渡した。

「一本やろう。」

斎藤が小林に言う。

「よろしくお願いします。」

小林は声をいつもより張って答える。

「稲川、審判お願いできるか?」

「もちろん。」

3人は道場の真ん中にある、一辺11mのひのき舞台に上がった。

小林と斎藤は舞台の中央でお互いに蹲踞する。

「はじめ!」

稲川の開始の合図とともに二人同時に切り掛かる。

ガッと木刀と木刀がぶつかる音が道場内に響き渡る。

鍔迫り合いの攻防。

斎藤は柄頭を小林の顎めがけてぶつける。

小林は間一髪避ける。

斎藤の追撃を嫌い小林は即座体勢を整え、

斎藤に対して正眼の構えをとる。

隙のない構えに感心すると、斎藤は木刀を右肩にかけるように八草の構えをとる。

それに呼応するように小林は、木刀を腰のところまで下ろし脇構えをとる。

二人はジリジリと間合いを詰める。

間合いに入った瞬間、切り掛かった。

ほぼ同時であった。

斎藤の木刀は小林の面を捉え、小林の木刀は斎藤の足元にあった。

「切り落としですか。参りました。」

小林が叩き落とされた自らの木刀を見ながら斎藤に言った。

「ほとんどの人間は、何をされたのか気づかないのだがな、

さすが稲川が認める男のことだけはあるな。」

斎藤はそう言い、はははと笑った。


「斎藤さん、下の名前はなんて言うんですか?」

「名前か、”一”と書いてはじめだ。」

「斎藤一・・・、斎藤一?!」

「なんだ、私を知っているのか?」

「いや、同姓同名の人物を知っているだけです。」


目の前のこの男があの”斎藤一”なら、是非とも師事を受けたいと思った。

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