第36話

血に塗れた、小林は敵兵の死体を漁っている。

敵の情報を確保するためである。

無論殺さずに情報を得るに越したことはないが、

殺ってしまったものはしょうがない。

「小林、やってくれたな〜。」

近藤が、ため息混じりに言う。

「すみません。抑えられませんでした。何せ顔が似ていたので・・・。」

「似ている?誰に?」

「いえ、こちらの話です。」

小林は、無抵抗の民間人を焼き殺した彼奴等の顔を思い浮かべていた。

「近藤さん、来てください!」

朝倉が近藤たちをトラックの方へ呼ぶ。

中には、布切れ一枚を包んでいるだけのほぼ裸の女性たちが両手両足を拘束されていた。

そのほとんどが10代の子供で、もっと幼い子ももいた。

肩には番号が振られ、まるで出荷される前の家畜のようであった。

そしてさらに胸糞悪いことに、

「この子達って・・・」

「ああ、俺たちの国の子だ。」

微かに聞こえた、彼女たちの声の響きでなんとなくそう感じていたが、

顔を見てすぐにわかった。

だからこそ小林は、飛び出してしまったのだろう。

「芹沢さん、この国旗てどこのですか?」

小林が、敵兵の死体の軍服に施された国旗のバッチを外し聞く。

「その国は、俺たちが偵察に向かっているところだ。」

「『ベスプチ』だ。」

近藤が国名を言う。

「ベスプチですか・・・、それが近い将来地図上から消える国ですか。」

小林が、冷たい目で笑いながら言う。

言葉だけでなく、本気で滅ぼす気でいる人の目であった。

「ああ、消えるべき国だな。」

芹沢が呼応するように言った。

二人はベスプチではなく違う国のことを言っているような気がした。


「これどうするよ?」

芹沢は、地面に転がる死体を指差し近藤に聞く。

「そうだなぁ・・・。」

と腕を組んで考えていると、

「魔獣に任せればいいんじゃないんですか?」

と朝倉が言う。

「魔獣?」

「いやさっきいたじゃないですか、ストーンピットブルの群れが。」

「ストーンピットブル・・・、あいつらか!・・・どうやって?」

「それはあいつらをここに誘き寄せて、ごちょごちょっと・・・。」

「ちょっと待て。」

小林が、話を遮る。

「そのストーンピットブル、ここに近づいてきてるぞ。」

「は?」

3人が、嘘だろうと聞き返したが、

「・・・本当じゃねえか。」

「とりあえずここを離れるぞ。」

敵兵のトラックのタイヤを付け替えその場を離れた。

***

「それでだ、この子達をどうするかだ。」

近藤が、トラックの中で眠っている子達を見て言う。

「とりあえず、稲川んとこに頼むか。」

「そうだな、あいつに任せておけば安心だろう。」

稲川、久しぶりに聞く名前に、小林の昂った感情は少し落ち着いた。


***

ストーンピットブルの群れが、死体を貪り食っている。

こいつらは骨まで食い尽くす。

こいつらが去った後、死体の山だったのが、血の池と脱ぎ捨てられたボロボロの軍服のみとなっていた。

その翌日この場所を大雨が襲い、血の池は綺麗に流されてしまった。

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