第37話
「おいおい、近藤さんこれ本当に小林がやったのか?」
目の前の惨状を見て稲川は、呆然としていた。
「すまねえな。面倒ごとに巻き込んじまって。」
「いやいや、近藤さんの頼みとありゃ断れないですけど・・・。」
小林が一般兵とは別次元の実力を持っているものだとはわかっていたが、
数十人の武装した兵士を者の数分足らずで虐殺するほどとは思っていなかった。
しかも徹底的に恐怖心を与えた上で・・・。
「何驚いてんだよ、お前も同じようなことしたことあんだろ?」
「昔の話ですよ・・・。」
「あの時は相当怒られてたな。」
「河上さんにね・・・。」
河上とは、稲川の元上司にあたる人で、近藤と芹沢とは同期にあたる人物だ。
「俺あの人、ちょっと怖いんだよね。」
「同期じゃないですか。」
「いやあ、あの人何考えてるかわからないから。でも河上さんは不思議なことに芹沢とは馬が合うんだよな。」
「おい、何喋ってんだ、とっとと乗れや。」
芹沢が、奴隷たちが乗るトラックの運転手席から二人を呼ぶ。
そしてトラックを、ひとまず国境まで走らせた。
***
「小林、お前は確かに強い。俺が今まで見てきた中でも5本の指に入るぐらいだ。」
「恐縮です。」
「ただ、俺たちの役目はあくまで偵察だ。」
小林は、自分がやったことを十分に理解していた。
だから、近藤はこれ以上追及はしなかった。
「人には向き不向きがあるからな、小林くんには偵察は向いていなかったんだろう。ただでさえ個性的で目立つ存在だ。むしろ、なんで近藤さんとこに来たのか不思議ですよ。」
稲川が、運転しながら言う。
「人手が足りねえんだよ。ここは。」
「情報戦の重要性を何度も説明しているのに、上の奴らは弾打つことしか考えちゃいねえ。」
味方の情報を隠しつつ、敵の情報を得る、しかも情報が漏れていることに気づかれずに、その情報を元に戦略や戦術を立案し、兵站を揃え敵を撃破する。
これが基本的な戦いの流れである。
この情報を得るための偵察とは、戦いの土台となる重要な部分だ。
この土台がない状態で描いた戦術は、やがて瓦解する。
「まあ今回は、小林一人で偵察と殲滅までやっちまったが・・・。」
「ここでもし泳がせていればもう少し情報得れたかもしれませんね。」
朝倉が言う。
「そうだ。激情に駆られる気持ちはわからなくもないが、感情を捨てることも覚えないとこの先しんどいぞ。」
「近藤さんはどうなんですか?」
「そんなもん、前世ですでに捨ててきたさ。」
近藤の顔を見て、芹沢はふっと笑った。
「そろそろ国境だ。」
***
「止まれ!どこの国のもんだ!?」
兵士が銃口をトラックに向ける。
「よせ、仲間だ。」
「河上軍曹、失礼しました。」
と兵士が銃口を下げる。
「お久しぶりです、河上さん。」
「何年無理だ?少し太ったか近藤。」
「いえいえ、むしろ痩せましたよ。」
河上と近藤の身長差は頭二つ分ほどあり、
河上を知らないものが見ると一見女性だと思うだろう。
だがこの河上は、沖田ですら実際戦ったらどちらが勝つかわからないと言われるほどの実力を持つ。
こと人を殺すことに関しては、起きた以上かもしれない。
「そいつか、今回の元凶は?」
と河上は小林の方を指差す。
その指でお腹を突き刺されたように錯覚した。
「小林清志郎です。」
冷や汗をかきながら、自分の名を名乗る。
返ってきたのは、どこか聞いたことがある名であった。
「初めまして。河上彦斎だ。」
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