第38話
「これが俺の人生の最後か・・・。」
好奇の目に晒されながら、河上は己の人生を反芻していた。
俺がこれまでやってきたことは何だったんだろうか・・・。
白装束を見に纏い、悔しさと虚しさを腹の中で混ぜ合わせながら、
地面をじっと見つめ己の最後を待っていた。
すると、処刑人がやってきた。
足取りからして、己と同じ人種の人間だと感じた。
そのものの顔を見て思わず笑った。
「これも何かの因果かな。斎藤さん。」
「それもそうだな。ちなみに今は藤田と言うんだ。」
「そうか、お前みたいに上手く生きれたらよかったよ。」
「俺は、あんたみたいに生きてみたかったよ。」
斎藤は刀を振りかぶる。
「近藤さんによろしく言っといてくれよ。」
「・・・そうだな行く場所は同じか。」
振り下ろした時の感触はほとんどなかった。
***
小さいとは知っていたが、想像以上に小さかった。
150cmほどの身長で、確かに立ち会った時これほどやりにくいものはない。
「なんだ、小せえって思ったか?」
彦斎が小林に聞くと、
「いえ、相手からしたらこれほどやりにくい相手はいないだろうと思ってました。」
と小林は答えた。
「試してみるか?」
「え?」
***
木剣を持った二人が対峙している。
身長差は30cmほどある。
側から見れば、小学生が大人に稽古をつけてもらっているようだ。
実際はむしろ逆であるが・・・。
「準備は?」河上が聞くと。
「いつでも。」と小林は答える。
初めの合図とともに、河上の姿が視界から消えた。
小林の首筋に目掛け、下から切り上げる。
首筋に切先が当たったのを感じとっさに体を後ろに引く。
「ほう、これを躱すか。」
小林は首筋を抑えながら、己の首がまだあることを確認していた。
小林は下段に構えた。
この構えは相手の脛を狙う構えで、相手を斬ると言うより動きを封じる狙いだ。
小林は下から切り上げる形で河上襲いかかる。
河上はそれを鼻先一寸ののところで躱すと同時に斬り返す。
小林は河上の切り返しと同時に燕返しの要領で切り下ろす。
刀同士が切り結んだと思ったら、河上の刀が小林の刀をするりとすり抜ける。
影抜きである。
再び河上の刀が小林の首筋に当たる。
今度は、小林は躱すことができない。
「参りました。」と小林が言うと、
「何を言う、食えないやつだ。相打ちだ。」
小林の切先は河上の水月に当てられていた。
影抜きされた瞬間に肩甲骨を回転させ刀の軌道を強制的に変え、
河上の水月に向け突き刺していたのだ。
***
「どうだい俺の剣は?斉藤と比べて。」
「そうですね、河上さんの剣は相手を殺傷することに特化したように思えました。」
「そうか、まあ間違ってはねえな。」
河上はどこの流派にも属せず使う剣は我流であった。
どこの流派にはある、「形」というものはなく、
確実に相手を殺傷するかという事のみに特化している。
下から切り上げる構えも、河上の体格を考慮してのものである。
「まあ、この部隊は何も考えず人殺せればいいからな。」
「何も考えてねえって心外だな。」
「じゃあ、河上さんなんか戦術とか戦略とか立ててるんですか?」
「そう言うのは山本さんに全部任せてる。」
「ほら。」
「人には適材適所ってのがあんだよ。」
「山本さん?」
「ああ、そういやお前元々山さんのところにいたな。今は稲川の上司か。」
小林はストーンピットブルと初めて遭遇した後、稲川とともに山本にあった事お思い出してた。
「あの人か・・・。」
「こいつはどっかの誰かさんと似て腕は立つが、頭より先に体が先に動いてしまうタイプでな。俺とほとんど同期だが、立場はお前さんとおんなじ、ただの一兵卒だ。」
「一兵卒じゃねえよ、分隊長ってちゃんとした役職があるよ。」
「・・・そうだったな。」
芹沢が子供をあやすように言う。
「小林は今日からこの部隊に配属されることになったから。」
「はい?」
「小林さん異動早くないですか・・・、じゃあ俺も!?」
朝倉が言うと、
「いや、朝倉お前は俺たちのところだ。」
と近藤が答える。
確かに先の件のことを鑑みても、異動が早すぎると小林も感じていた。
「山本さんだよ。」と稲川が口を開く。
「山本さん?」
「ああ、小林が近藤さんとこの部隊にいると知ってな。
あいつをあそこに置いてくのは勿体なすぎるだろうと言うことでな。」
「心外だな、と最初思ったが、あれをみた以上確かに勿体ねえと俺も思ったよ。」
「そこで特例でお前をこの部隊に異動させたわけだ。」
「この部隊はどういった・・・、まあなんとなくわかりましたが。」
と河上の方を見て小林はその問いを止めた。
「多分自分がこの部隊に入ったら、三日も持たずに死にそうですね・・・。」
と朝倉がつぶやく。
河上らが所属する部隊は、戦場の最前線に位置し、
常に敵からの攻撃にさらされ、そして敵との攻防を繰り広げている。
「お前とは色々あったが、ここでしばらくの別れだな。達者でな。」
「小林さんも・・・。」と二人は握手を交わす。
「小林さん・・・。いやなんでもないです。」
いくら小林といえど、死ぬかもしれないと言う不安、これがもしかしたら最後かもしれないという気持ちから出かかった言葉を朝倉は飲み込んだ。
「安心しろ、俺は「死神」とも呼ばれてたんだ。」
「逆に安心できないですよ。」
「そうだな。」
小林は苦笑した。
「死神」とは、戦場からたった一人で帰ってくる小林を揶揄した言葉だったからだ。
「それを言うなら俺だって「人斬り」って呼ばれてたぞ。」
と河上が対抗するように言うと、
「みんな知ってます。」と小林が言う。
「あ、そうですか。」
***
近藤たち、少女たちを乗せたトラックに乗り込む。
芹沢は小林に向かって、
「小林、このバカのことよろしくな。」
と笑って言うと、トラックを走らせた。
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