第26話

小林と朝倉は、一心不乱に木を削っていた。

時折軽く振りながら感触を確かめ、首をかしげながら

削り徐々に未調整をしていく。

それを沖田が横で見守っている。

「今何本目だ?」

斎藤が沖田に聞く。

「うーん2,3本じゃないですか?」

と沖田が言うと、

「32本目です。」と朝倉が言う。

その横には10本ごとに綺麗に削られた木刀が整列している。

「えー、そんな作ったの?」

「沖田さんが言ったんでしょ、どうせすぐ折れるんだから大量に作っとけって。」

「言ったって?まあでも、そろそろか。」

そう言い、沖田は並べられて木刀を一本手に取り正眼の構えを取る。

冷たい風が、頬を掠める。

気のせいか、沖田を中心に風がどんどん強くなっていっている。

風が強くなっていくのと同じように木刀の色がどんどんと褐色を帯びていく。

軽く振ると、突風が巻き起こった。

と同時にバキッという音がなり、木刀が折れてしまった。

「ありゃ、折れてしまった。」

素振りで竹を割った剣豪がいたそうだが、軽く振って木刀を折った人間は初めて見た。

小林と朝倉は目の前で起きた現象にただただ呆然とするのみであった。

「何ぼーっと、見てるんだよ、お前らもやるんだよ?」

「は?どうやって。」

朝倉が思わず口に出す。

「そんなの、スーッとやってポンよ。」

「はい?」

「だから、スーッとやってポン。」

「スーッとやってポン・・・。」

朝倉は沖田が言ったことをただ繰り返していってみたがよくわからなかった。

それをみかねたのか、斎藤が口を開いた。

「すまないな、こいつは人に教えるというということが基本的にできないやつなんだ。」

「まあ、なんとなくわかります。」

と朝倉が答える。

「いや、わかるでしょ、斎藤さんは何回かみたらできるようになったじゃないですか。」

「おいおい、それは俺の洞察力、観察眼があってのことだ。こいつらに俺並みの観察眼があれば別だが。」

「それもそうですか。」

「小林、あの木陰に野うさぎが隠れているが、何羽かわかるか?」

「野うさぎ、そんなもの見当たらないんですが・・・」

と言いかけた後、2羽のウサギが出てきた。

「え?」小林は、斎藤をなぜという表情で見た。

斎藤はふっと笑うと、

「朝倉、小林二人とも向かい合って構えろ。」

と斎藤は、二人に木刀を渡した。

振ればれば当たる間合いでお互い構えさせ、

「ちょっとした遊びをしてみようか。」

「遊び?」朝倉が言う。

斎藤は、小林に目隠しをした。

「小林、朝倉が来ると思ったら、面を防げ。来てもいないのに防いだら俺が後ろから面を打つからな。朝倉は、自分の好きなタイミングでうちに行け。」

「え、そんなん僕がめちゃくちゃ有利じゃないですか?」

「まあ、やってみろ。」斎藤はふっと笑い言うと、

「じゃあ行きますよ。」と朝倉は構えた。

目隠ししている小林に向かって面を打ちにいく、

カンッと木刀が打ち合う音が響く、

朝倉は、なぜ防げたんだと言う顔をしている。

「どうした朝倉、一回で終わりか?」

小林が言うと、朝倉はすぐさま打ちに行く

カンッ、またも防がれる。

少し間をずらしても、虚をつこうとしても、防がれた。

「なんで?」と朝倉がつぶやくと、

「もういいぞ、目隠し外しても。」

斎藤は、笑っていう。

「小林、朝倉がなんで防げるのか疑問に思っているようだから教えてあげな。」

「朝倉、平常心について散々言ったはずだがな・・・。打ち気が強すぎて目を瞑ってても・・・。」

「気づいたか。」

「いや、人だからできることですよこれは。」

「いや、ただ単に感度が低くなっているだけだよ、戦いの場に長いこといた人間は

人の殺気や気配に対して敏感だ。それはなんとなくわかるな?」

小林は頷いた。

「人に向かっていた意識や感度を自然に向ければ、近くにいる動物の気配なんて簡単にわかるはずさ。もっといけば植物や近く川の場所もわかってくるようになる。」

なんで、人の気配はわかって動物や植物の気配にはなかなか気づけないのか。

それは、動物、植物が自然に溶け込んでいるからだ。

気配を感じるということは言ってみれば違和感を感じるということだ。

平時と違う動きを感じ取りそこに違和感を覚える。

平時との差が大きければ、小林ほどの人でなくとも違和感に気づくことがある。

大地震の前兆で、野生の動物が以上行動を起こすことがあるのは、

自然界で起きている違和感にいち早く気づき行動に起こしているためだ。

動物は自然との距離が近いからこそそこの違和感に敏感なのかもしれない。


「お前たちがまずやらないといけないことは、自然に対して敏感になることだ。」

斎藤はそう言い、小林たちが削り出した木刀を握り構える。

ふーと息を吐き、素振りを始める。

すると、どんどんと木刀が青白く光り始めた。

「斎藤さん。」そう言うと、

小林は何かを確認するかのように、持っている木刀を斎藤に投げる。

木刀は斎藤をすり抜けたように見えた。

投げた木刀は横に刀で切ったかのように切断されていた。










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