第23話
「それは、隊舎では使うなと言っただろう。」
近藤が、呆れた顔で沖田にいうと、
「いやぁ・・・。」と
イタズラがバレた子供のように沖田がバツが悪そうにしている。
「いくら木剣とはいえ、しばらく使い物にならなくなったところだぞ。」
「いやあ、この子なら受けてくれそうな気がしたんですよ。」
「沖田さん、さっき木剣が赤黒く光ったように見えたんですが、もしかしてその事ですか。」
沖田は、ニヤリと笑って木剣を構えた。
完璧で隙のない正眼の構えで、切先は正面の相手の左目にぴたりと線を張ったかのように付けられ、正面から見るとまるで刀を持っていないかのようであった。
深呼吸しながらその切先をゆらゆらと上下に振る。
気のせいか、切先の振れに合わせるかのように沖田の周りの空間が揺れ始め、
じわじわと木剣が赤黒く光り始めた。
刀身全てが赤黒くなると同時に切先を振るのを止めた。
背筋を冷たい風が通り過ぎるのを感じた。
小林は気づいていたら構えていた。
「安心して斬りはしないよ。軽く振るだけだ。」
そう言い、沖田は赤黒く光るその木剣を振る。
小林の直感が避けろと言った。
右に半歩避ける。
バーンと爆発音がした。
後ろを振り返ると道場の扉が吹き飛んでいた。
「沖田・・・。」
近藤が眉間を押さえながらため意地交じりに言うと、
「・・・今月の給料から差し引いてください。」と沖田が言った。
***
「沖田さんのあれって魔力の類ですか?」
小林が斎藤に聞くと、
「いや、似て非なるものだ。」
「魔力とは違う?」
「ああ、君もすでに聴いていると思うが、我々人間は、体内で魔力を生成することができない。」
「はい、魔力が必要な武器や乗り物は燃料となる魔石や魔油を使う必要がある。」
「ああ、その通りだ。そしてそれらの武器や乗り物は魔物か魔石で作られている必要がある。」
「あの木剣は違うんですか?」小林が聞くと、
「あれは、裏山のかしの木でできたただの木刀だよ。」
「僕が作ったね。」沖田が訂正するように言う。
「ああ、そうだな。」
「ただの木剣・・・。」
小林は不思議に思っていた。
「この国に森羅万象、すべてのものに神が宿ると言われている。海、山そしてもちろん木にもな。」
小林は手に持つ木剣に目をやる。
「まさか、神の力なんていうんじゃないですよね。」
斎藤はふっと笑い。
「その通りだ、神の力だ。」とまっすぐな目で言った。
「意外ですね、斎藤さんは神なんて信じないと思っていましたが・・・。」
「君はどうなんだね?」
「僕はあいにく神や仏は・・・、いや、仏は知りませんが神はいますね。」
斎藤は小林のその言葉を聞き、また笑った。
まるで同族を見るかのような目で、小林を見ていた。
沖田、そして近藤も同じような目で小林を見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます