第22話

斎藤が山道を歩いている。

その後ろを小林、さらにその後ろを朝倉が続いている。

「斎藤さん、今どこに向かっているんですか?」

ひたいから滝のように汗を流しながら、朝倉が聞く。

「もうすぐだ。」

と斎藤は振り返らずに言う。

「え?」と朝倉が聞き返すと、

「黙ってついて来い」と小林が朝倉に言う。

しばらく歩いていると、懐かしい音が聞こえてきた。

竹刀がぶつかり合う音と、気合の入った声だ。

「武道場ですか?」と小林が聞くと、

「ああ、それにしても今日も沖田くんに大分しごかれているようだな。」

と斎藤が笑っていった。

「沖田・・・、総司。」と小林が小さく呟くと、

斎藤がばっと振り返った。

「知っているのか?」

「名前は・・・。」

「そうか・・・。彼も有名人だな。」

「沖田総司って誰ですか?」と朝倉が聞く。

小林は朝倉をじっとみた後、

「多分今日死ぬな・・・。」といい道場に向かった。

「ちょっと、どう言う意味ですかそれ?」

***

道場に入ると軍服姿の隊士たちが床に突っ伏していた。

「どうした、まだ2時間も経っとらんぞ!」

と、小柄の軍服姿の男が檄を飛ばす。

「沖田くん。」

「あ!斎藤さん。」

さっきまで鬼の形相だったのが嘘だったかのように好青年の顔に戻った。

童顔で、体格は斎藤とは対照的に痩せ型で身長も決して高い方ではない。

並んでみると、斎藤の方が年上の方に見える。

実際は沖田の方が年上だ。

「そちらの方は?」

「お会いできて光栄です。第7師団歩兵部隊偵察隊、小林です。」

「同じく朝倉です。」

「へえ・・・。」

沖田は品定めするかのように二人をみて、

「普通だな。」と沖田が言う。

斎藤ががっはと笑った。

小林は思わず斎藤の方を見た。

「何驚いてるの?普通だよ。ね、斎藤さん」

「いや、そうじゃなくて、斎藤さんがそんなふうに笑うんだと少し驚いただけです。」

小林自身、自分が剣士としては普通だと言うことは十分わかっていた。

それは、比較対象が戦国時代の剣豪や幕末の剣士たちだったからだ。

その時代の剣士としての能力の基準が、小林の生きていた時代に比べはるかに高いのは容易に想像できる。

その基準の中で普通と言ってもらえて逆に嬉しいくらいだった。

「まあ、斎藤さん真面目だからね。」

「そんなことよりも、沖田くん、今日は彼らを頼みたいのだが・・・。」

「あー、それで今日珍しいと思ったんですよ。ちなみに素振りはできるんですかこの二人は?」

「ああできる。」

実は朝倉はあの後、毎日素振りを続けていた。

小林と一緒に毎日朝と夕方に1時間ずっと振り続けた。

最初は10分でへばっていたのは20分、30分となっていき。

1ヶ月経つ頃には1時間振り続けられるようになった。

「今日もやってきました。」と朝倉が自慢するかのように言うと、

「うん、普通。」と沖田に冷然と返された。

「うーんそうだな、今日なんか物足りなかったからなー。」

と沖田は木剣を小林に渡した。

「沖田、普通と言ったが、先駆け先生よりかは強いぞそいつ。」

斎藤が沖田に言うと、

「それはここのほうですか?」と胸を叩くと、

「どっちもだ。」と斎藤が言う。

「へえ、確かにそれなりの修羅場を潜り抜けてそうだ・・・。」

そう言い沖田が構えた。

小林もそれに呼応するように構えた。

初めに動いたのは小林の方であった。

ただ、真っ直ぐ入り真っ直ぐ振り上げ真っ直ぐ振り下ろす。

特別の技でも必殺技でもなく、基本的な動作だ。

だが、精度と練度は凄まじく、沖田は一瞬目を奪われた。

だが、小林の木剣は空を切った。

ギリギリのところで沖田が見切ったのだ。

返刀に沖田が突き返す、

小林は頭、のど、みぞおちを全て守る形で受ける。

カカカと、一突きのはずなの音が三つ聞こえた。

「これを受けるか・・・。」と斎藤が感嘆した。

そりゃあ、沖田の三段突きは知っているんでね、

まさか小説の中のフィクションじゃないのには驚いたがね。

沖田はニヤリと笑い、息をふっと吐くと

木剣がうっすらと赤黒く光り始めた。

「沖田!!」と道場の奥から激昂が響く。

沖田は木剣を床に置き天井から頭を引っ張られているかのように直立した。

小林もなぜか同じように、直立してた。

奥から、恰幅の良い男が出てきた。

「いや、これは違うんですよ・・・、近藤さん。」

近藤勇、この部隊の総隊長に当たる人物だ。


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