第33話
戦力差は情報戦によって覆せる。
優れた軍師ほど、情報戦に長けているものだ。
突飛な奇策に見えても、得られた情報から成功するという確信があって
実行に移しているものだ。
その一方で、情報も何もない状態で手当たり次第に打ったら
たまたまラッキーパンチが当たることがある。
残念なことにそれを、己の実力と勘違いする愚か者もいる。
総じてそういったやつらは2回目で敗北を喫する。
個人の負けならまだしも、軍を巻き込んでの敗北だからたちが悪い。
1回目の勝利の味に占めて2回目も同じ戦法で勝とうとする。
勝ちに行っている時点でもう間違っているのだ。
戦場においては、勝つことよりも負けないことのほうが重要だ。
負けないために必要なのがそう「情報」である。
朝倉と近藤は、2人森の中を歩いている。
不思議なことに2人で歩いているはずなのに足音は一人しかしていない。
「あーさーくーらー。」あきれたように近藤が言う。
朝倉は、近藤のその言葉に昔見ていたドラマを思い出していた。
「すみません。」と申し訳なさそうに言う。
「足音立てるなって言っただろう?」
「いやあ、わかっているんですけどね。」
「まだ、俺たちの敷地内だからいいものの、敵地だったら一瞬で位置がばれるぞ。」
「小林にも教えてもらったんだろう?」
「ええ、まあ。」
小林の歩く姿は、近藤と遜色ないもので合った。
頭が上下に揺れることは一切なく、水面を泳ぐ鴨のようで合った。
足の運びは、歩くと言うよりも、足を前方に置き続けていると言った方が良く
足跡はほとんど残らない。
動作はゆったりのように見えるが実際の歩く速さは、朝倉よりもずっと早い。
「一体どこで学んだんだろうな?」
「そうですね、もともと軍人だったらしいですが・・・。」
小林は、ゲリラ戦の経験がある。
己の位置を隠蔽しつつ、敵を捕捉しそれを撃墜する。
そう言った戦いをしていた。
最終的に枯葉剤を巻かれて、地理的優位を壊されたが・・・。
「軍人か・・・。ならあいつは戦場で死んだのか・・・。羨ましい限りだ。」
「羨ましい?」
「いや、忘れてくれ。」
そう言いながら、近藤と朝倉は歩みを進める。
心なしか、朝倉の足音が小さくなっていく気がした。
「そろそろ敷地を出るぞ。気を引き締めろ。」
「はい。」
近藤たちは、これから敵地偵察のため、文字通り死地を彷徨うことになる。
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