第7話
勇敢な戦士は、己を犠牲にし、仲間を救う
臆病な戦士は、仲間を犠牲にし、己を守る。
俺は、どうやら後者の方だったらしい。
仲間のほとんどが死ぬ戦いでも、俺だけは生き残った。
鉛玉の雨にさらされても、火の海に飛び込んでも、
爆破する地面を行軍していても俺だけはなんとか生き残ってこれた。
もちろん無傷ではないが、人よりも回復するのが早かったし
体が丈夫なのもあった。
腹に風穴が開いても、傷口を押さえながら半日はその状態で戦ったことがある。
不死身の小林と呼ばれることもあった。
だが、俺以外の仲間が全員死んだ時は、
俺は不死身ではなく、死神なのではないかと思った。
不死鳥は、己の屍から復活するが、俺は仲間の屍の上で生かされていた。
俺は、さっきの戦いで、四人の死を犠牲に生き残ったのだ。
俺は、血に塗れたナイフを洗いながらそんなことを思っていた。
落ちている木の枝を拾い、ナイフで切り、切断面を確認した。
表面が途中で切れてなくツルッとしていることを確認すると、
「よし。」とナイフをホルダーに挿した。
「小林君、ちょっといいかい。」
稲川が、見計らったかのように来た。
「はい、大丈夫です。」
と答えると、稲川と一緒に山本軍曹の元に向かった。
部屋に入ると、山本は俺に今回戦った魔獣について話し始めた。
「君が今回討伐したのは、ストーンピッドブルと言う魔獣の一種の子供だ。」
「ストーンピッドブル・・・。」
「主に岩山に生息して、群れで行動するのが特徴だ。今回のように1体のみの個体との戦闘はイレギュラーもイレギュラーなことだ。」
「稲川さんがいうには、群れから逸れたと。」
「ああ、逆に言えば近くにストーンピッドブルの群れがいるということだ。」
と稲川が言う。
「あれが何体もいると言うことですか?」
「そうだ。」
「遭遇したら・・・。」
「何も準備していなければ全滅するな。」
山本が言う。
「だから君と僕が呼ばれたんだよ。」
稲川が言う。
「正直、この部隊で単体でストーンピットブルに対抗できる兵士はそこの稲川と
小林君ぐらいだ。」
「たった二人しかいないんですか!?」
「”単体”ではだな。というより一人で魔獣を討伐できる人間なんて1部隊に一人いるかいないかが普通なんだ。」
「そう言うものなんですか・・・。」
「10人で1体を討伐するのが基本だ。」
稲川が言う。
「たった1体倒すのにそんなに必要なんですか?」
「成獣となるとそれぐらい必要だ、子供でも五人は必要だ。」
「・・・それはこちらに犠牲が出ないことを想定した人数ですか?」
俺は、なんとなく思ったことを山本に尋ねた。
「驚いたな・・・。その通りだ。この軍には、敵の命を狩るために己の命を差し出せる人間が少ない。だから安全策をとりにいく。戦争に安全地帯などないのにだ。」
敵を討つために己の命を投げ出す。
比喩でもなんでもなくその言葉通りのことを、我が国はやっていた。
「そんな考えでは”神風”でも吹かない限り、勝てないでしょうね。」
俺は、山本の目をまっすぐ見て言った。
山本は思わず目を見開いた。
「それで、我々は何をすればいいのでしょうか?」
稲川が聞く。
「ピットブルの群れを討伐するには、人員がたりない。」
「40人いや、36人ですか?」
「群れはどれくらいの数になるのでしょうか?」
「おおよそ8体が基本だ。」
「8体となると80人は必要になりますね。」
「1体あたり10人の計算だとするとな。まあ、小林君と私が一体ずつ狩るとしても後24人足りない。」
「そこでだ、二人の力で、5人で1体を狩れるようにしてほしい。」
山本は、声高々にいった。
なんと無茶なと思った。
「死地に飛び込む覚悟は一朝一夕じゃ身につけられませんよ。」
稲川が山本に言ったが、俺はその言葉を聞いた時、
それさえ身につければなんとかなるかもしれないとも思った。
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