第9話
「朝倉君まずは、構えてくれ。」
「はい。」
朝倉は、ユーティリティナイフを構えた。
見様見真似なのがすぐわかるような不恰好な構えだ。
俺も見本を見せるつもりで構えた。
「え?」
「気づいたか。」
俺は、切先を朝倉の左目につけている。
正眼の構えといい、基本の構えの1つだ。
なぜそうするかというと、
「今から間合いを詰めていくから、間合いに入ったと思ったら下がってみてくれ。」
「はい。」
ジリジリと詰めていく、もうすでに間合いにいるが朝倉は下がろうとしない。
ようやく一歩下がったが、間合いが切れていない。
俺は、切先を少し下げた。
「うわあ!」
想定していた間合いよりもはるかに近いことにびっくりしたのか朝倉は思わず尻餅をついた。
外側から見たらなんで、朝倉が尻餅をつくほどびっくりしたのかわからない。
こんなに間合いが近いのになんで下がらないのかと不思議に思うだろう。
切先をどこにつけるか、足の幅は、目線をどこに置くか構えには意味がある。
「人を殺すだけだったら、構えなんか気にせずにナイフを適当に振り回すだけで
脅威だ。でも、我々が行うのは戦闘だ。そこには理合が存在する。
考えてもみろ、集団で戦闘している中で、味方に適当にナイフを振り回している奴がいたらどうなる。敵以上の脅威だ。」
戦闘においてナイフを使う場面は、銃を使うと同士討ちが起きる条件が揃っているときだ。
一人の敵を囲んで制圧するときに銃なんか使うバカがどこにいる?
ストーンピットブルとの戦闘は、1対5の戦闘になると想定される。
俺は、死なない為の技術と考え方を教えた。
基本的な構えを徹底させた。攻撃の仕方なんて教えるつもりは最初からない。
目付けの仕方。姿勢。足の運び方。ナイフの握り方。切先をどこにつけるか。
それが、この後の銃を使った戦闘にも生きると思ったからだ。
1時間ずっと、構えのみの練習をした後、10分ほど休憩をとり、
俺は、刃の付いていない訓練用のナイフを渡した。
「よし、じゃあ今から俺が全力で襲いにいくから、それに対応する練習だ。ストーンピットブルだと思って戦うように。」
「え?」
俺は、兵士の中から適当に5人を選んで俺を囲むように配置させた。
「構えて。いいか絶対にナイフで避けようとするなよ。」
「ちょっと待ってください、僕たちまだ構えしかしてませんよ。」
「そうだな、1分ぐらい耐えたら合格としようか。誰か時計係をやってくれるか。朝倉君、頼む。」
「え?あ、はい。」
「始め!」
俺は号令と共に兵士の一人に向かって突進した。
ナイフを横に振る、腰の引けた情けない格好だ。
当然の如く避ける。
「ナイフで避けるなと言っただろう。」
俺は兵士の首筋を訓練用のナイフで優しく撫でた。
兵士の一人が背後から刺しにくる。
俺は体を反転させそれを避ける。
「いい判断だ、攻撃の後は隙が生じるそこを狙うのは間違っていない。だがもう構えが崩れている。」
ナイフの切先で額を軽くついた。
この時点で10秒。
残り3人の兵士は、教わった構えを取った。
これで俺は容易に間合いに入れなくなった。
が、惜しいのはこの3人は俺を囲まずに並んで対峙している。
これだと敵の視線を散らすことができない。
「二人とも散れ、囲め!」
真ん中の兵士が叫ぶ。それを合図に俺を囲むように陣形を取った。
「わかっているじゃないか。」
兵士の一人が、違う兵士にアイコンタクトを送った。
視線が俺の方に戻ってきた時にはもう、ナイフは首元にあった。
「は?」
「あと二人。」
もう後がないと思ったのか残った二人は、俺の方に向かって突進してきた。
ピピッピピッピピッとタイマーの音がなる。
「1分経ったか。」
俺は二人の兵士の首筋からナイフを外す。
「背後から襲ってきたやつと、指示を出した奴はまあギリ合格かな。今の先頭で悪かったところを反省しておいて。じゃあ次。」
その後、兵士全員と戦ったが誰一人1分間耐えた兵士はいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます