第40話

銃の登場によって、刀での戦闘はほとんどなくなった。

しかし、龍刀の戦士の一部はいまだに刀を使っている。

それはなぜか・・・。


河上彦斎は、敵の後方に立ち最後部の兵士に殺気を送っている。

人の殺気というものは案外気が付かないものだ、

それは、殺意を持った人間が中途半端で未熟だからである。

血を吸いにくる蚊の敵意に気づけるかと言ったらほとんどの人が無理だというだろう。その敵意や殺意は直前までわからないものだ。

だが世の中には、気だけで人を殺せる人間もいる。

ある種呪いとも呼べるものを扱える人間が・・・。

ただ河上の放っているそれは呪いではなく、ただ単純に強者のみが発することのできる純粋な殺意。

未熟な兵士でも、切られたと錯覚するほどの殺意を当てられ、

兵士の一人が後ろを振り向く。

しかし河上の姿はそこにはなかった。

ズルッ

何かがずれ落ちる音がする。

兵士の胴体であった。

血飛沫を上げながら、絶叫とともに上半身がずれ落ちていく、

そこから不敵に笑みを浮かべる河上が現れる。

「敵襲!!」

敵兵は一斉に振り返るが、またしても河上の姿が見えなくなる。

一人、二人と切り捨てられていく。

敵は何が起きているのか全く理解できずにいる。

敵兵の一人が不意に下を向くと、

切先が己が喉元に向かってくるのに気づく、

思わず尻餅をつくが、それが幸運なことに河上の刀を避ける形となった。

「下だ!」

それがその兵士の最後の言葉となる。

河上彦斎の我流抜刀術は、己の頭を地面スレスレまで沈ませ、その反作用の力で抜刀しながら、敵を逆袈裟斬りの形で切り捨てるものである。

相手はまるで地面から刀が出てきたと錯覚するほどで、初見の相手はまず防ぐことができない。

この技を初見で防げたのはただ一人・・・。

「小林!!」

河上の合図とともに、小林は矢を放つと敵兵の頭を貫く。

これで敵兵は、近距離からの河上の抜刀術だけでなく、遠距離からの小林の狙撃にも気をつけないといけなくなった。

銃でないのは、硝煙の匂いと、音を嫌ってのことだ、その結果、

敵兵はしばらく小林の位置を捕捉できずにいた。

「前門の虎、後門の狼ってか?」

「舐めやがって。」

河上に向かって発砲するが、悉くかわされる。

絶対に当たることはないと察したのか兵士の一人がナイフを構える。

そちらの方が生存確率が高いと判断したからだろう。

「馬鹿だな、目の前のその人は河上彦斎だぞ。」

小林は敵兵を撃ち殺しながら、そのナイフを構えた男を気の毒に思った。

「それに、ナイフと刀じゃ部が悪すぎるだろう・・・。」


龍刀の戦士たちが刀を使う理由、

それはこと近接戦闘において日本刀はいまだ最強であるからだ。


そして、100人以上はいたその軍隊はたった二人の兵士によって壊滅させられた。

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