第4話
自転車に乗って5km先の目的地まで行けと言われらば、
大抵の人は簡単にできるだろう。
では、自転車を担いで同じ距離を行けと言われたらどうだろう・・・。
兵士の装備の総重量はおよそ30kgほどある。
むしろ、自転車の方が軽いぐらいだ。
そんな代物を担ぎながら、兵士は1日5kmどころか倍の10kmは歩く。
初めのうちはカバンの紐が肩に食い込み少し内出血することがあり、
歩いている間は、痛い、苦しい、次の休憩所はいつだ?
そればかりしか考えられない。
行軍は軍の基本の行動の一つだが、新兵にとってはただの苦行だ。
隣で一緒に歩く、同い年くらいの新兵は泣きそうな顔になりながら、前の人の踵をみながらひたすら歩みを進めていた。
おそらく相当しんどいのだろう、腰の水筒はもうほとんど空っぽだ。
おそらく頭の中は、「痛い」の文字でいっぱいなはずだ。
痛いと思うとずっと、痛い箇所に意識が入ってしまう。
まずはそれを無くすために痛い以外のことを考えるようにする。
できるだけ単純なことがいいので、数字でも数えるのがいいだろう。
寝る時に羊を数える要領だ。
「数字でも数えると、少しは気が紛れるぞ。」
俺は前を向いたまま、つぶやくように言った。
「へ・・・?」
うつろな目で俺のほうに顔を向けるが、
すぐにまた前の人の踵に視線が戻る。
「1、2、3、4、・・・。」
俺の後ろの方から、数字を数える声が聞こえた。
「心の中でだ。」と俺がいうと、声は静まった。
おそらく隣の新兵以外も同じように痛く苦しいのだろう。
長年軍にいたが、これは慣れるしかないとしか言えない。
気を紛らわすことはできても、痛みを和らげるコツなんかない。
ただ、繰り返し慣れていくしかないのだ。
その中で楽な歩き方、軽く感じるパッキングなどを覚えていくのだ。
気合いと根性なんて古臭いと言われるかもしれないが、
兵士として生きていく上でそれは必須の条件だ。
周りを見たところほとんどの人間はその条件を満たしていそうだ。
そのことに安心した。
だが俺は、行軍中ずっと不安を抱えていた。
それはこれが訓練ではなく、実戦だということだ。
そして俺の不安は的中し、この中の兵士の半分はこの直後死ぬこととなる。
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