第3話
死んだ後はどこに行くのか子供の頃考えたことがある。
父は、優しい人間なら天国にいけると言っていた。
そうじゃない人は、どうやら地獄に行くとのことだ。
なら俺が行くところは地獄だろう。
俺はあまりに人を殺し過ぎた。
地獄がどんな場所かは言ったことがないのでわからないが、
楽しいところではないことは確かだ。
俺が今いる場所は周りを見渡す限り、何もない。
真っ白な空間にポツンと俺が立っているだけだ。
楽しいところではなさそうだが、まさかここが地獄とは言わないだろう。
なんて考えていると、
「小林清志郎、前へ進め。」
低いドスの効いた女性の声が頭の中に響いた。
誰だと思ったが、指示に従い前に進んだ。
しばらく進むと、何もない場所に扉が現れた。
「止まれ。」
指示に従いその場で止まる。
「中へ入れ。」
軍服の襟を正し、帽子を被り直し、扉をノックした。
返事はない。
もう一度ノックをする。
コン、コン。
返事がない。
もう一度ノックをしようとした時、
「トイレじゃないんだ。ノックは3回だ。」
頭の中で響いていた声が扉の向こうから聞こえる。
そんなの知らねえよ!と思ったが、指示通りノックを3回すると、
ゆっくりと扉が開く。
俺と同じように軍服を身に纏った女性が座っていた。
歴戦の猛者の風格を漂わせており、
その鋭い眼光に睨まれれば大抵の人間は萎縮して何も言葉を発せなくなるのだろう。
「ミネルヴァだ。まずは自己紹介をしてくれ。」
「小林清志郎、1928年生まれ、享年54歳。
生前は日本陸軍に所属、その後ベトナムに渡り、義勇軍として戦争に参画。
1975年敵兵の銃弾に頭を撃ち抜かれ戦死。」
「シンプルでよろしい。」
ミネルヴァは、眉一つ動かさず鋭い眼光のまま言う。
「今までにどれだけの敵兵を倒してきた?」
「1110人です。」
「それは多いのか少ないのか?」
「比較対象が人間なら多い方ですが、天災に比べたら少ない方です。」
「ほう。独特な言い方をするな。」
「いや、すみません人間と比べても少ない方でした。」
「なんだ、なら人間で最も多いのはどれくらいなんだ。」
「正確な数値は分かりませんが2万人以上の命を一瞬のうちに奪ったものがおります。」
「それは天災級ではないか。」
「はい、それで私の父もやられました。」
「そうか、別れの言葉もなくやられたのは辛かったな。」
「いえ、最後に話ができたのでそれで十分です。」
「そうか。」
二人の間に数秒の沈黙が続く。
「聞くが君は、まだ戦えるか?」
ミネルヴァが、鋭い眼光のまま聞く。
「どうですかね、流石に50を超えてからだいぶ無理してましたから、
できても後4、5年ぐらいが限界だと思います。」
「と言うことは、若ければまだ戦えると?」
「もちろん。」
当然のように答えた。
ミネルヴァは、ニヤリと笑った。
「ちなみに戻れるとしたら、何歳がいい?」
「入隊したのが、19歳なのでそれぐらいに戻れると嬉しいですね。」
「よしわかった。ちなみに必要な武器はないか?」
「軍から支給されるもので十分ですが、しいて言えば、切れ味が良くて丈夫なナイフが欲しいですね。」
俺は銃よりも、近接戦闘が得意だった。
特にナイフ術が得意だった。いつ使うんだとよくからかわれていたが、
実際、ナイフで1110人のうちの3分の1は敵兵を討っている。
ナイフ戦においては俺以上の兵士を見たことがなかった。
「よし、用意しておこう。」
俺は戦場で戦うことになるのか?
正直頭の整理がつかないまま、話が進んでいるが・・・。
「すみませんが、俺はこの後どこに行くことになるのですか?」
「まあ焦るな。今から説明する。」
そういうとミネルヴァは一枚の紙を俺に渡した。
左側に俺の生前の経歴が右側に俺の名前とその下に初めて聞く国が書かれていた。
「これから君は、19歳の小林清志郎として、これまで生きてきた世界とは違う世界で生まれ落ちることになる。」
「全く違うというと、俺が過ごしていた世界にはない物があったりとかするのか?」
「察しがいいなその通りだ、この世界には魔法という物が存在する。」
「魔法。おとぎ話に出てくるようなものか?」
「まあ、そんなものだ。詳しいことはその世界に人に聞いてくれ。」
「・・・了解。」
「もちろん、銃や剣もある。生物を殺傷するのに適した形なのだろう。どこの世界にもこの2つは存在する。悲しいことにね。」
銃剣の殺傷能力については人並み以上には理解しているつもりだ。
俺は無言で頷いた。
「魔法も大小様々あるが、物によっては君の父を奪った天災級のものもある。」
「そうか、できれば使って欲しくはないな。」
「なに、使われる前に君が殺せばいいのだよ」
ミネルヴァは鋭い眼光で俺に向かって言った。
「それもそうだな。」
どんな強力な破壊兵器も使われる前に潰して仕舞えば被害はないというのは当然の話だ。原爆も落とされる前に撃墜していれば・・・。
「一つだけ聞いていいか?」
「なんだ?」
「私以外にも、死んだ後に兵士として異世界に行くような人間はいるのか?」
「そうだな、戦士として私が送り込んだ人間ならいくらかいるな。」
「たとえば誰だ?」
「貴様が知っている人間で言うと宮本武蔵、沖田総司、河上彦斎なんて奴がいたな。」
歴史に名を残す、剣豪、剣士じゃないか。
それに肩を並べるほどの強さなんてとてもじゃないが俺は持っていない。
「聞く限り、強者と呼ばれる人間が送られているようだが。」
「ああ、その通りだ、なんだ貴様は違うのか?」
「自分で言うのはなんだが強い方だとは思うだが、その三人と並ぶとどうしても見劣りする。なんで俺なんだ?」
どうせ兵士として送りこむなら俺なんかよりももっと優秀で強い人間はいるはずだ、それこそ山本なんて俺よりも適任だろう。
「それは、君の死ぬ間際の顔を見てしまったからだよ。」
ミネルヴァは、その時の顔を思い出したのか鋭い眼光が一瞬揺らいだ。
死ぬ間際?俺はその瞬間を思い出した。自分が殺される瞬間を思い出すのは気分がいいものではないが・・・。
自分でもどういう顔をしていたのかよくわからないが、確かに敵が発狂するぐらいだから相当な顔をしていたのだろう。
「人間に対して初めてだよ、恐怖を感じたのは、それと同時にこの男をこのまま死なせるには惜しいと思った。」
神すらも恐怖させるような顔か・・・、それなら発狂するのも当然だ。
「さあ、お話はこれまでにして。」
ミネルヴァはパンッと手を叩くと、面接官の後ろに扉が現れた。
「その扉を開くと、君の第2の人生が始まる。いや新たな戦いか・・・。」
その言葉を聞き俺は、ふっと笑った。
「全てを失ったあの日から私は死に場所を探していました。
でもそれと同時に戦いにも飢えていました・・・。
また、戦う場所を与えてくれてありがとうございます。」
ミネルヴァに敬礼すると扉を開けた。
「武運を祈る。」
俺は振り返らず肩で返事をし、新たな戦場に乗り込んだ。
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