第29話

新撰組の隊舎の中の道場の中から、刀を切り結ぶとが聞こえる。

道場内には赤黒く光る木刀で立ち会う、小林と朝倉がいた。

「それじゃあ、斎藤さんの名前を聞いた時、お前は気づいていたのか?」

小林が、朝倉に向かって聞く。

「いや、最初は同姓同名の人だと思っていましたよ。ただこの部隊の別名を聞いて確信しましたよ。」

朝倉は、小林の面を捌き切り返す。

「新撰組か?」

「はい。まさか斎藤一だけじゃなく近藤勇、土方歳三、沖田総司もいるとは思いませんでしたけどね。」

「その3人以外にも元新撰組の奴らは全員いるぞ。」

斎藤が沖田と一緒に道場に入ってくる。

「全員っていうことは、伊藤さんもですか?」

「・・・ああもちろん。」

「大丈夫なんですか?特に斎藤さん。」

「大丈夫ではなかったな。」

「斎藤、殺されかけてたもんね。」

「本当ですか?」

「ああ、鴨さんがいなかったら危なかったな。」

「鴨さん?もしかして芹沢鴨ですか?」

「ああ。」

「もっとやばいじゃないですか!?」

朝倉が声を上げる。

斎藤は笑いながら首を横に振った。

「最初は、全員緊張感があったがな。何があったのか、

あんなに酒乱だったのに今では一切酒を飲まなくなってな。

暗殺したことも笑って許してくれた。

あれは殺されても文句言えねえよって言ってな・・・。」

「なんか、逆に不気味ですね・・・。」

「そうだな。でも鴨さんのおかげで、元御陵衛士の奴らは刀を納めてくれたんだよ。」

「ということは今の新撰組のトップは芹沢鴨なんですか?」

「いや、局長は土方さんだ。近藤さんと鴨さんの推薦でな。」

「土方さんが?」

「ああ、本人はかなり嫌がっていたがな。」

「じゃあ、もともと土方さんがいたポジションには誰が、まさか近藤さんじゃないでしょう?」

「副長は伊藤さんだよ。」

「伊藤さんが?じゃあ近藤さんは?」

「ああ、あの二人は・・・。」

「俺は今は別の部隊だ。」

「近藤さん・・・。」

軍服姿の近藤が二つのリュックを肩にかけ道場に入ってくる。

「色々とお前らは話を聞きたいかもしれんが、そろそろお前らにも仕事をしてもらわんとな。」

「ほらっ」と近藤はそのリュックを小林と朝倉に投げ渡した。

二人は片手でそれを受け取る。

「そこそこ重いですけど何が入っているんですか?」

「入っているのは基本的な装備一式だ。30キロぐらいあるかな。」

「そうですか・・・。30キロもありますか?」

小林はリュックを軽く縦に振って重さを確かめた。

「28ぐらいしかないですよ。」

「あー、そうだった水筒を無くしたんだった。」

「あー、それで・・・、水筒をなくす?!」

小林は思わず声を荒げた。

「まあ、それには意図があるんだ。それについては後で話すから。」

「そうですか・・・。」

「それじゃあ、小林と朝倉とは明日からよろしくな。」

「は?」


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