第8話 突破戦
「――わかった、俺達で血路を切り開く」
サンドイッチを口に押し込んで、一気に喉の奥へと流し込む。
味わって食べたかったんだが…… 仕方がない。
Kar98kの装填を確認し、前へと進む。
大丈夫、俺達ならやれるはずだ。
「私がゴブリンをおびき出すから、そこを撃って」
「頼む」
今度は俺たちが攻める番なので、ただ待っているだけでは目的が達成できない。
故に、ゴブリン達を木の裏から引きずり出す必要があるのだ。
リエは普通の駆け足くらいの速さで、街道上をゴブリンのいる方へと突っ込んでいく。
「あれを遅いと思うなんて、俺も毒されたな」
思わず、フッと笑いが溢れた。
二匹のゴブリンが、待ってましたと言わんばかりに出てきて、リエの進路に立ち塞がった。
「――来たっ!」
ダアン
発射された弾丸が、音を置き去りにしてゴブリンに吸い込まれる。
リエはそれを一瞥して、道のすぐそばに植わっていた木を蹴って飛び上がった。
銃弾を食らっていないもう一匹のゴブリンを
一瞬の出来事に対応できなかったゴブリンは切り裂かれ、HPバーがすぐに底をついて絶命した。
俺が撃った方も多量の出血が続いているので、じきに失血死するだろう。
「さっそく二匹か、幸先がいい」
しかし、息をつく間もなく次のゴブリンが現れた。
突出したリエを挟むようにして、右から三匹、左から二匹が、仲間の仇と言わんばかりに出てくる。
ダアン ダアン
「左の二匹はやった! 右の三匹はまだ残ってる!」
「レベルアップで習得したあれの出番だね!」
あれが何なのかは知らないが、余裕がありそうなので見守ことにした。
彼女の短剣が、青いオーラに包まれる。
「
横並びで近づく三匹のゴブリンの首元に、一筋の青白い光線が襲い掛かる。
その光がゴブリンの首を通り過ぎると、首輪のような赤いリングがはめられた。
ゴブリン達は驚愕の表情を浮かべたまま、頭を地面に滑り落ちさせた。
「範囲攻撃技『一文字』、どうだった?」
「お、おう…… こりゃすごいな」
あまりの凄惨さに言葉を失ってしまいそうだ。
三発の弾を込め、更に前方のゴブリンを打ち払うために前進する。
先ほどと同じように、リエを狙ってゴブリンが出てくるはずなので、そこを撃つ。
これを繰り返せば、いずれはゴブリンを突破できるだろう。
ドオオォン
突然、鼓膜が破れんばかりの轟音が耳をつんざく。
「ば、爆発!?」
榴弾か? 地雷か? IEDか!?
一体何が起こったんだ!?
わかっているのは、進行方向左側で小爆発が起こったという事だけ。
俺のHPバーは半分近くまで削れていた。
「リエ、大丈夫か!?」
驚きのあまり尻もちをついてしまったリエの元に駆け寄る。
俺より近い場所で爆発を受けたからか、全身を血みどろにしてHPバーを四分の一にまで減らしていた。
「あいたたた…… これもゴブリンの仕業かな?」
「俺はまだHPが残ってる。一旦俺の後ろに隠れて――」
「大丈夫、これくらいなら回復薬を飲めばなんとかなるよ!」
彼女は言葉を遮って、緑色のドリンクを喉に流し込んだ。
彼女のHPは少しづつ回復をし始めた。
ちょっと待てばある程度のところまでは回復できそうだな。
「回復が終わるまでは俺が食い止める。その後はまた頼むぞ!」
俺達が爆発でダメージを負った隙を突いて、ゴブリンは総攻撃を仕掛けてきた。
一、二、三、四――
俺はそこで数えるのをやめた。
二桁は確実にいるだろう。
ダアン ダアン
先頭を突っ走ってくるゴブリンに対して撃つ。
アドレナリン全開の急速射撃だ。
「む、俺を差し置いて抜け駆けようってか?」
ゴブリン数匹が、商隊の馬車をめがけて走っていた。
ダアン ダアン ダアン
肉体を貫いた弾丸が葉を揺らす。
奴らは一方的に撃たれるのはまずいと判断したのか、先に俺を叩くために目標を変更する。
行き足を止められればそれで十分だ。
「よし、これで全てのゴブリンの
ダアン
ダアン
全方位から迫りくるゴブリンを相手に、近い順から弾丸をひたすら叩き込む。
ダアン
ダアン
ダアン
ダアン
ダアン
ダアン
ダアン
ダアン
「おまたせ、回復終わったよ! 援護ありがとうね!」
HPが満タンになった彼女が、残るゴブリンに斬りかかる。
俺にもっと火力があれば、今頃ゴブリンを全滅させれてたんだろうがな。
リエが近距離、俺が中遠距離を担当し、全てのゴブリンを掃討した。
「なんとか打破できたな。一時はどうなることかと思ったよ」
「急に爆発してびっくりしたね。あれ? イブキ君はHPの回復してないんだ」
そう言うと、彼女は例の緑色のドリンクを差し出してくる。
「ほらこれ飲んで。私だけHP満タンなのも、なんかイヤだし」
何度見ても毒々しい見た目のドリンクだ。
目をぎゅっと閉じて、一思いに流し込む。
良薬は口に苦し。
きっと不味いに違いない。
しかし、そんな俺の予想は外れた。
「……普通に水だな」
無味無臭の軟水のような舌触りに、思わず拍子抜けしてしまう。。
「そうでしょー? でも、水と違うのはここからだよ」
「何をいって…… うおっ! な、なんだこれ!」
突如、体の底からエネルギーが溢れ出すような感覚が湧き上がってきた。
減っていたHPバーが、ぐんぐんと戻っていく。
「おお、HPが満タンまで回復したぞ」
「それが『全回復薬』。一人でレベル上げしてると、ヒーラーさんに回復してもらえないから必需品なんだよ」
「こんな便利なアイテムがあったんだな」
次からは俺もインベントリに入れておこう。
HPが減ったら自然に回復するのを待つしかないと思っていたので、これは大きな収穫だ。
少し待っていると、商隊の馬車が追いついてきた。
「ステラちゃん……?」
おっさんの操る馬車のそばに、大粒の涙を浮かべる少女がいた。
少女は次々に出てくる涙を必死に拭っている。
「どうしたんだい? 何かあったのか?」
「おばあちゃんが、おばあちゃんが来ないの…… 助けて!」
ステラの感情は更に昂って、拭いきれないほどの涙を溢れ出させる。
「よしよし、大丈夫だよ。私たちがなんとかするからね」
リエが頭を優しく撫でて気持ちを落ち着かせると、しゃっくりのような反応も収まって、なんとか話せるようになった。
「馬車が壊れて動けなくなっちゃったの。私は先に行けっていわれたんだけど、おばあちゃんがまだ来てないの」
「あの婆さんが馬車を捨てようとしないんだ。ったく、何を積んでいたのかは知らんが、命だけは助けてやろうと思ったのにな」
先頭の馬車を操るおっさんが、ステラの祖母のゼマライについての情報を付け加えてきた。
「擱座した馬車と一緒に、商隊に置いてかれてしまったってことか」
「他の勇者さんたちにお願いしたんだけど、みんな断られちゃった…… もうお兄ちゃんとお姉ちゃんしかいないの」
俺とリエは無言で顔を合わせて頷く。
「俺達で助けに行く。後で追いつくから先に行っててくれ」
サランドに戻る商隊とは逆方向に進み、その先にいるはずのゼマライを求めて進む。
すると、ステラにズボンの裾を掴まれた。
「後で追いつくなんて言葉、もう信じない。私も一緒にいく」
俺としたことが、ゼマライと同じことを口走ってしまった。
なんとか言いくるめて残らせたいが…… 無理そうだな。
「わかった、でも約束してくれ。俺が逃げろと言ったら、この車列に逃げるんだぞ」
「うん、わかった」
ステラはまっすぐ俺の目を見て、力強く頷いた。
「よし、ゼマライばあちゃんを助けに行こう」
商隊を見送って先を急ぐ。
最後尾の馬車を確認したが、やはりまだ追いついてないようだ。
手遅れになる前に助けなければ。
「おばあムグッ――」
しばらく進んだ先で馬車を発見して、思わず飛び出そうとしたステラを止める。
状況は最悪のものになっていた。
「一足遅かったか、荷物の略奪が始まってる」
右側の車輪が大破して擱座した馬車の周りに、大勢のゴブリンが群がっている。
ここからだと、ゼマライの姿は確認できない。
見えないところにいるか、すでに連れ去られてしまったか…… 後者だと最悪だ。
「は、離してぇ」
押さえつけているステラがジタバタと暴れる。
「落ち着け。ここで闇雲に突っ込んだって、どうせゴブリンにタコ殴りにされるだけだ」
「でも、早くおばあちゃんを助けないと」
少女を押さえつける手を少しだけ緩める。
「ここは俺達に任せとけ、心中に妙策ありってな」
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