第18話 祝勝パーティー

「それでは、王国の末永い繁栄を祈って。乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 国王の温度に続いて、手に持ったグラスで乾杯する。

 真上から通る太陽の光が、グラス中によって複雑に曲がる。

 大皿に盛られた料理は、太陽に照らされて煌々と光る星星のように輝いている。


「冒険者の皆のために、我が王室料理人が腕によりをかけて作った料理だ。存分に堪能してくれ」


 王室仕えの料理人って…… 現実世界だと桁単位の金が飛んでいく代物なんじゃないのか?

 いや、そもそも金で買えるのかすら怪しい。


 ただでさえ美味しいというのに、空腹が悪魔的に組み合わさる。

 それが料理を何倍、いや、何乗もの美味しさに膨れ上がらせる。


「楽しんでくれておるか?」


 他のプレイヤーに挨拶を済ませた国王が、舌鼓を打っている俺の元に回ってきた。


「これは国王陛下。お陰様で」

「それは良かった。国を救ってくれた冒険者だというのに、楽しんでもらえなければ申し訳が立たんからな」


 社交辞令を交えた無難な話をするが、国王がただ俺とおしゃべりをしに来たのでない事は明白だ。

 背中に背負っていたKar98kを手に取る。


「こちらが国王陛下のおっしゃっていた得物で、名をKar98kと言います。どうぞ」


 Kar98kを手渡すと、国王は様々な角度から観察し始めた。


「危険ですので、先端の穴は決して覗かれぬようお気をつけください」


 弾は入っていないが、念のためな。


「ふむ…… これはどのようにして攻撃するのだ?」

「それはですね――」


 念のため、ポケットに忍ばせておいたモーゼル弾を取り出す。


「こちらの銃弾と呼ばれるものを放って攻撃します。戦闘方法としては、弓や弩と似たようなものと思っていただいて大丈夫かと」

「そんなに小さいもので敵を倒せるのか? 当たったところで、大した傷にはならぬように思うのだが」

「小さいからといって侮るなかれ、その威力は相当なものです。ご覧になりますか?」

「ほお、頼む」


 国王からKar98kを戻してもらい、弾を一発込める。

 狙いは庭の木でいいか。


 ダアン


 クライリース城内に発射音が響き渡る。


「陛下!?」


 突然鳴った発射音に驚いた従者が、咄嗟に国王を庇いにくる。


「よせ、心配はいらん。それにしても凄まじい音だな」

「音も凄いですが、威力にもきっと驚いていただけますよ」


 着弾地点がどうなったのかを見せるために、目標にした木に近寄る。


「これは…… 樹皮が弾け飛んでおるのか……」

「銃弾は音さえも置き去りにして飛翔します。命中すればただでは済みません」

「音を? 今、音を置き去りにすると言ったか!?」


 木を触りながら俺に振り向く国王の顔は、まるで好奇心旺盛な小学生男児のような顔つきであった。


「音の進む速度は秒速三四〇メートル。このKar98kから発射される銃弾は七六〇メートルですので、二倍以上の速度があります」

「今、音の二倍の速度と言ったか!? やはり、音にも速度があるのだな!?」

「は、はい」


 な、なんか話の方向が銃弾よりも音速の方に行ってないか?

 まずい、中世ヨーロッパな世界観に音速という概念は早すぎたかもしれない。


「学者連中も音に速度がないという奴がほとんどでな。雷を使って音の速さを測ろうとしているのだが、なかなか上手くいかんのだ」


 この国王陛下、まるで研究者だ。

 音に速度があると思いついたとしても、雷を使ってそれを測ろうなどと実行にはなかなか移せないだろう。


「国王陛下は知識欲が豊富なのですね」

「そうだな、せっかくこの世に生を受けたんだ。死ぬまでに少しでも多くの真実を知っておきたい」


 この人が現代日本に生まれたなら、きっと何個もの博士号をとっているのだろうな。


「よろしければ、こちらのKar98kは国王陛下に差し上げましょうか?」


 世界初の音速の実測。

 それには、銃の発射の閃光と発射音との時間差を使ったと聞いたことがある。

 きっと、国王陛下の研究に役立ってくれるだろう。


「いいのか!?」

「構いませんよ。銃弾はこちらに五発ございます。追加が必要でしたらお伝え下さい。できる範囲で応えさせていただきます」


 Kar98kを受け取った国王は、軽い小躍りを始めた。

 はっと我に帰ると、従者にKar98kを持って行かせた。

 このパーティーが終わったらじっくり観察でもするのだろう。


「おほん、このパーティーは皆の昼食も兼ねておる。遠慮なく食べておくれ」

「はい、ありがとうございます」


 国王はほくほく顔でクーガーの方に向かって行った。


「ちょっと、イブキくんの銃をあげちゃって大丈夫だったの?」

「大丈夫だよ。丁度これから新しい銃を作る気でいたしな」


 王都会戦中、さらなる火力が欲しいと思う時が何度もあった。

 丁度一段落ついたし、新兵器を開発するならちょうど良いタイミングだ。


「もう新しい鉄砲を作っちゃうんだ。大変だね」

「今のままじゃ力不足だからな。相手より優位に立つ努力は惜しまないよ」


 さて…… 有力プレイヤーが集まっているこの機会。

 みすみす見逃すわけにはいかないな。


 特に、あのネロって人物とは初対面だ。

 背中に背負っている武器を見る限り、どうやら両手剣使いのようだ。


「どうも、俺はGruppe所属のイブキ。話をするのは初めてだな」

「あっどうも! ウィンプバレットってのはあんたか?」

「い、いかにも。あまりその二つ名で呼ばれたくはないんだがな」

「それじゃぁ、これからはイブキって呼ばせて貰うよ。俺のことも気軽に呼び捨てで呼んでくれ!」


 初対面の印象としては、爽やかな人物という感想を抱いた。


 しかし、声の大きさが凄まじい。

 言い合いになったら声の迫力で押し切られてしまいそうだな。


「ネロの方はどんな戦いだったんだ?」

「魔王軍がやってきた日、俺たちのパーティーは徹夜でレベル上げをしていたんだ」


 さすがはプロゲーマー。

 強さに対しては人一倍貪欲だということか。


「夜中に交代で休憩を取っていたら魔王軍を見つけて、そこからはもうひたすら戦いまくり! 最初の一撃から最後の一撃まで戦い続けたんだ」


 まさか、ネロが魔王軍を見つけて、あの通知が送られてきたのか?

 もしそうだとすると、半日以上戦っていたことになるぞ。


「最初から最後までって…… さすがに休みはしただろう?」

「いや、途中に指示を出せって言われた時以外はずっと剣を振ってた。その甲斐あってさ、見てくれよこれ」


 ネロが見せてきたのは冒険者タグだ。

 真ん中には銀色のタグがはめられている。


「冒険者レベルは中級クラスⅠ! ここまでレベルを上げているのは俺だけだぜ!」

「そ、そうか。それは凄いな」


 とは言っても、平均的な冒険者のレベルがどの辺りになのか知らないからな。

 俺にとっては馬に念仏な話だ。


「そういえば、勲章を授与されるかどうかって、どう決まったんだろうな?」


 昨日の夕方に授与式招待の通知が来てから、ずっと抱いていた疑問だ。

 他のプレイヤーの動向についても詳しそうなネロなら知ってると思うのだが。


「特に活躍した冒険者が招待されているらしいぜ」

「なるほどな」


 このネロはゴブリンをひたすら倒しまくった功績を、クーガーは左翼集団を壊滅させた用兵による功績を、リエは爆発に巻き込んで増援を全滅させた功績を讃えられたのだろう。


 俺は…… 何をしたんだ?

 ゴブリンを沢山倒したわけでも、絶妙な用兵で魔王軍を手玉に取ったわけでもない。


 もしかして、国王陛下がKar98kを見たいがために招待されたんじゃないか?

 ……うん、その可能性が一番高いな。


「宴もたけなわなようだが、少し集まってくれぬか」


 うなだれていた時に、国王が大きな机の前に立って全員を呼び集めた。

 その大きな机の上には何枚かの大きな地図が置かれている。


「せっかく皆が集まっとるのだからな、これからの方針を固めようではないか」

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