第19話 今後の方針

「まずはこの地図を見てくれ」


 国王が指さしたのは、大陸が二つ描かれた世界地図だ。


「この小さい方の大陸。これだ我々の故郷であるアネア大陸だ」


 そのアネア大陸は世界地図の東方に位置している。

 大陸の形としては、地球の南極大陸に近い形をしていて、海岸線の書き込みも細かい。


「そしてもう一つの弓なり状の大陸が、あともう一年もせんうちに魔王が復活する地のソルガ大陸だ」


 ソルガ大陸は世界地図の反対側、西に位置している。

 大陸の広さはアネア大陸の五、六倍もある。

 形は弓なりというよりか、左右反転させた南アメリカ大陸みたいだ。


 ただ、海岸線の書き込みはアネア大陸よりも貧相で、未開の地といった印象を受ける。


「その魔王を倒すには…… この広い海を渡る必要があるのか」


 クーガーが手尺で大陸間の大洋の大きさをアネア大陸と比べている。

 一見しただけだが、大洋の横幅は一番狭いところでもアネア大陸の二倍以上ある。


 だが、この世界地図を見て、今一度このβテストの最終目標を思い出した。

 後一年の間に、このソルーガ大陸の奥地で復活する魔王を倒さなければならないのだ。


「こう考えると、あと一年んだな」

「ああ、入念に計画を練っておかなければ、ソルガ大陸に上陸することすら叶わないかもしれないな」


 どうやらクーガーも概ね俺と同じ考えのようだ。


「それなら今すぐにでも魔王のところに行こうぜ! 全冒険者で乗り込めば、レベルが足りなくても倒せるだろ!」


 クーガーの言葉を聞いて、ネロが両手を広げて自分のひらめきを伝える。

 しかし、それはいささか早計に過ぎないだろうか?


「やめておいた方が良い。仮に、一万人の全冒険者が真っ直ぐソルガ大陸に向かったらどうなるかわかるか?」


 見かねたかのようにクーガーが口を開いた。


「……どうなるんだ?」

「具体的には、一万人を支える補給線を維持できずに、いずれ突破力を失うだろう」


 そりゃそうか。

 俺たち冒険者は街で食料や飲料、回復アイテムなどを購入している。


 だが、現地住人がいるかどうかすら不明なソルガ大陸では、全てを自給自足する必要があるだろう。

 後先考えずに突っ込むようでは、一万人どころか、千人分の物資を確保できるかすら怪しい。


「仮に有志によって補給線が構築されたとしても、それは細い一本の補給線だ。維持するためには、何度もサランド再打通のような対応をする必要がある。それも、海上で」


 出だしの勢いが凄まじかったネロも、クーガーに言いくるめられてしまっては流石に鳴りを潜める。

 やはり、用兵に関してはクーガーの方が一枚も二枚も上手だな。


 しかし、このままフルボッコにされたままなのもわかいそうだ。

 助け舟を出してやるか。


「ただ、なるべく多くの冒険者で乗り込むのはいい案だと思う。アネア大陸を安定化すれば、その余裕もできるんじゃないか?」


 アネア大陸から魔王軍を追い出せば、王国軍だけでも防衛できるだろう。

 そもそもこの小さい大陸を制圧できないようでは、敵の本拠地でもあり四、五倍以上の面積があるソルガ大陸を制圧するなど夢のまた夢だろう。


「それじゃぁアネア大陸の魔王軍は、いつまでに倒さなきゃいけないの?」

「二ヶ月だ。海を渡るのに必要な期間もまだ不明だ」


 リエの質問にクーガーが即答した。

 確かに、冒険者のレベルが上って進軍速度が上がったとしても、面積比で考えるとそれくらいの短期間で落とす必要があるか。


「けど、海を渡る期間が不明なのは怖いな…… 国王陛下、何かご存知ではないですか?」


 ふと思い立って、知識欲に溢れる国王に聞いてみることにした。


 千年前に魔王が討伐されたというのなら、その時の文献が残っている可能性がある。

 もしかすると、国王がそれを読んだことがあるかもしれない。


「ふむ…… 話半分に聞いてほしいが、童話にこんな一節がある。『勇者は氷のように冷たい海に一月揉まれて、雪の降る魔王大陸につきました』というものだ。童話からしか出せんとは、儂もまだまだ勉強不足だな」


 それだけでもありがたいな。

 童話とは言え、知ってるのと知らないのとでは大きな違いだ。


 海を渡るのに一月かかったとして、ソルガ大陸攻略に使える時間は八ヶ月。

 それだけあればなんとかなりそうだな


「となると、是が非でも二ヶ月でアネア大陸を抑えたいな」

「陛下、魔王軍の動向に関する情報はありますか?」


 クーガーが国王に質問を飛ばすと、国王の後ろに待機していた従者がスッと前に出てきた。


「偵察にあたっている第二騎馬団によると、セジョア王国領にいた魔王軍は姿を消したようです」

「王国以外にも国があるのか?」

「それならこの地図の方が良いだろう」


 国王が机の中央に出してきたのは、アネア大陸が大きく描かれた一枚図だ。

 世界地図とは違い、山河と国境線、国名が記されている。


「アネア大陸は、中央大山脈によって南北に隔たれている。我が王国の位置は、中央大山脈南側のここだ」


 王国領土がアネア大陸に占める割合は約三分の一。

 ここから魔王軍を追い出したといっても、アネア大陸を制圧するにはまだまだかかりそうだな。


「このオステリア連邦ってのはどうなっているんだ?」

「連邦か、我が王国と百年戦争をしていた国だ。戦争中も伝書は行われていたが、半年前に連絡が途絶えた」


 連絡が途絶えただと?

 戦争中にも伝書が行われていたというのなら、国交断絶ということは無いだろう。

 確実に魔王軍が絡んでいるな。


「ただ、王国と百年も殴り合うような国力があるのなら、味方になってくれれば心強い勢力になります。再度、連絡を確保するべきかと」

「よし、連邦に使節団を送るとしよう」


 国王は顎を引いて俺たち冒険者を見回す。

 表情を見る限り、冒険者の意思は一致しているようだ。


「護衛をどうするか決めなければならんな。使節団一つ守るのに、ワールドクエストを出す必要もあるまい」

「それでしたら、この場にいる私たち冒険者のクランにお任せください。この面子であれば、魔王軍に引けは取りません」


 クーガーが放った言葉に頬が熱くなる。

 俺の実力を認めてくれるなんて、ちょっと照れるな。


「よし、出発は二日後の朝としよう。では、頼んだぞ」

「「「はっ!!」」」


 パーティーもお開きになり、俺たちは帰路についた。

 人の少ない路地に入ったところでリエが口を開く。


「いつの間にか、トッププレイヤーに認められるような実力を持ってただなんてね。βテストが始まった時は思いもしなかったよ」


 そう言われると、俺も同じ思いだな。

 せめて戦闘職に引けをとらない戦いをしたいと思っていたら、いつのまにかこんな力を手にしてしまっていた。


「けど、そんな実力を持ったからには必ず責任が伴う。頑張ってその責任を果たさないとな」


 横並びで歩いていた彼女が少し駆け出して、くるりと体を反転して俺の方に向き直る。


「大丈夫だよ。私たちで力を合わせれば、きっとなんとかなる。今までもそうだったでしょ?」

「ああ、そうだったな。これかもよろしく頼むよ、リエ」

「私こそよろしくね」


 この先の戦いは更に厳しく、激しいものになるだろう。

 しかし、俺にはマスタースキルで作った現代兵器がある。

 心配は無用、トッププレイヤーにだって成り上がれるはずだ。



―――――――――――――


―第2章 終―


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