間話 βテスト中の現実世界での暮らし

 間話になります。

 話の本筋に関係はない(はず)です。



――――――――――――― 



 目を覚まし、寝慣れたベッドから起き上がる。


「んっ…… 今何時だ?」


 時計の針は八時を指していた。

 カーテンの隙間には陽の光が差し込んでいる。

 ってことは朝か。


 ここは現実世界。

 ゲーム内で就寝するとログアウトするか選択できるので、こうして定期的に戻ってきている。


「さて、まずは飯だな」


 部屋に積み上げた段ボールから、パウチを一つ取り出す。

 パウチを握ると、薄い色のペーストがニュルっと出てきた。


 これが食事だ。

 一つで一食分の栄養を摂れる完全食というやつらしい。

 βテスト期間中の栄養補給手段として、一ヶ月分がゲーム会社から支給されている。


 しっかし、ディストピア飯でも、もう少しマシなのが出てくるんじゃないか?


 パクリ


 ペーストを一口食べる。

 薄味だ。

 美味くもなければ不味くもない、微妙な味。

 食感も特にないので、何ら楽しみを見つけ出すことができない。


「ゲームに戻ったら口直しになんか食べるか…… さて、行くか」


 玄関で靴を履いて外に出る。

 夏真っ盛りだが…… なんとか動ける暑さだな。


 頬を叩いて気合を入れ、ランニングを始める。


 βテストに参加するプレイヤーは、現実世界で定期的に運動するよう定められている。

 一ヶ月も寝っぱなしだと、健康に悪いというのが理由だ。


「はっはっはっ、しっかし、普段よりも運動してないか? これ」


 普段は家でリアリスティックFPSゲームをプレイする俺は、自発的に運動をする習慣があまりない。

 βテスト期間中の習慣である、朝夕に二十分のランニングをするだけでも、運動している方になる。


 まあ、現実世界じゃまだ一日も経過してないから、習慣と呼べるかは怪しいけどな。

 なんせ、まだ初ダイブから十五時間しか経過していない。

 Aliusの時間加速機能さまさまである。

 

「お、コンビニだ」


 水分補給がてら寄っていこう。


 朝といえども夏は暑い。

 出て行った汗の分の水分を補給しないとな。


 飲料の陳列棚に行こうとすると、雑誌の棚の前で足が止まった。

 俺の目線はある一冊の雑誌に釘付けになる。


「実報! 世界初のVRMMORPG『Verum』」


 それが雑誌のタイトルだ。

 普段雑誌は見ない俺だが、思わずそれを手に取ってしまう。


 内容はβテストに実際に参加する編集部員がゲームについて紹介するものだった。

 主に、フルダイブによるリアルな体験について語られている。


 そして、ゲーム内で起こった出来事についても書かれていた。

 ただし、情報は古い。

 時系列で言うと、Kar98kのテストをしたあたりまでだ。


 しかし、その中でも「謎の銃声」について言及されていた。


 ゲーム内二日目の朝、何発かの銃声が聞こえたとある。

 武具屋で聞いた噂話と一緒だ。

 まあ、俺はその謎について全てを知っているのだが。


 読み進めると、次号以降で調査を続けると書かれている。

 こりゃ次が楽しみだな。


 その雑誌とスポーツドリンクを買い、家に帰る。


 軽くシャワーを浴びて汗を流し、再びダイブする準備を整えた。


「さあ、いくか!」


 ダイブを開始した俺は意識を手放し、あの世界に舞い戻った。

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