第17話 勲章授与式

 ▽▼▽▼▽


 勲章授与式への招待


 王都会戦にて、貴殿の多大なる活躍を確認致しました。

 勲章を授与しますので、明日午前十一時よりクライリース城で開かれる式への出席をお願い申し上げます。


 △▲△▲△




「勲章授与式?」

「あ、私にも来てる」


 リエにも来ているのか。

 一体この授与式には、何人くらいの冒険者が招待されているんだろうな?


「おや、私も招待されているみたいだ」


 クーガーもか?

 いやまあ、魔王軍の左翼集団を壊滅させて、王国を勝利に導いたんだから当然か。


「式は明日だから、今日はしっかりと休んで疲れをとっておかないとな」

「この辺で王都に帰るとするか。イブキたちも一緒にどうだ?」

「すまん、置いてきたものを取ってから帰らないといけないんだ」

「そうか、ではまた明日、クライリース城で会おう」


 その後、丘の上に置いていた弾薬箱を回収し、お互いに疲労が溜まっていたので、早いところ分かれた。




 ◇◇




「んんっ―― もう朝か」


 どうやら家に帰った後、晩飯も食べずに死んだように寝てしまっていたようだ。

 日が沈んだ後すぐにベッドに入ったから、ざっと十二時間は眠っていた計算になるか。


 勲章授与式が始まるのは十一時からだが、もう家を出なければならない。

 リエに八時半に中央広場へ集合するよう言われてしまったのだ。


 時間に余裕を持って会場行くにしても、少し早すぎやしないだろうか?


 まあそうぐちぐち考えていても仕方がないので、手早く準備を整える。

 Kar98kは必要ないな。

 勲章を貰うだけなら、何かと戦うこともないだろう。


 手ぶらに等しい装備で家を出ると、街は祭りが開かれているのかと勘違いしそうなくらいに賑わっていた。

 まだ朝だというのに、大通りには露店が所狭しと並んでいる。

 どんな店があるのか横目で見ながら、中央広場に向かう。


「おはよう、もう来てたんだな」

「おはよ―― やっぱりね。集合時間を早めにしといて良かった」


 こちらに振り向いたリエの顔に、どんどん黒い影が浮かんでくる。


「どうしたんだ? 時間に遅れてはないはずだけど」

「そうじゃなくて…… その服! なんで初期装備のままなの!?」

「そう言われてもな…… 動きやすくて便利じゃないか」


 俺が着ているのは、白Tシャツに黒長ズボンのシンプルなもの。

 俗に言う『初期装備』や『無課金装備』だ。


「普段はそれでもいいけど、今日はこれから式典なんだよ? ほら、行くよ!」


 右手を強くグイグイと引っ張られ、強制的に連行される。


「い、行くってどこに?」

「仕立て屋。大丈夫、時間ならたっぷりあるから」


 きっぱりと返され、あれよあれよと仕立て屋の中に入れられてしまった。

 店内は現実世界とはかけ離れていて、ファンタジーチックな服が沢山展示されている。


 すぐに着て行かないといけないので、仕立て済みの服を店員さんに持ってきてもらう。

 冒険者の身なので、ドレスコードはそれほど気にしなくて良いらしい。


 ロングコートや甲冑などを色々着てみたが、いまいちしっくり来ない。

 動きづらかったり重かったりする上、Kar98kと相性が良いとは言えないからな。


「こちらはいかかでしょうか?」


 次に渡されたのは、青っぽいグレーのチュニックのような上着。

 正面には四つの大きなポケットがついている。

 まるでM36野戦服みたいだ。


「よし、これに決めた!」


 この服ならKar98kとの相性もバツグンだしな。

 同時にベルトと同じ色のストレートズボン、革製のブーツを買っておく。


「さあどうだ、これなら文句あるまい!」


 店の扉を開け放ち、外で待っていたリエに俺の姿を見せつける。


「おお、ビシッと引き締まってる!」

「だろ?」


 しかし、よくこんな服が置いてあったな。

 生産職の中に軍装マニアでもいるのだろうか?


「それじゃぁ、クライリース城とやらに向かおうか」


 クライリース城は、王都に流れる運河のそばに荘厳な佇まいで鎮座していた。

 胸壁の付いた城壁を備える堀に運河が接続していて、堀には絶えず水が流れている。

 中央にそびえ立つ主塔は石造りの重厚な建物で、堂々とした外観をしている。


 王都に敵勢力が攻め入った時、最後の砦となるのがこのクライリース城なのだろう。


 堀の周りを歩いて入り口を探すと、木で造られた跳ね橋が架けられた城門を見つけた。

 入り口はここしか無いようなので、橋に足を踏み入れる。


「止まれ」


 目の前に左右から槍を重ねられて行く手を止められる。

 左右には、銀色の甲冑を着た二人の衛兵が立っていた。


「勲章授与式の招待を頂いたんだ」

「話は聞いている。所属と名前を申せ」

「Gruppe所属、イブキだ」

「同じくGruppe所属、リエ」


 クロスした槍を解かれ、俺たちは橋を渡れるようになった。


「確認した、通れ」


 俺たちが城門の前にたどり着くと、木の大扉が重い音を立てて開いた。


「イブキ様、リエ様、お待ちしておりました」


 中に入ると、片眼鏡をかけてピシッと蝶ネクタイを決めた、いかにも執事といった風貌の紳士の出迎えを受ける。


「式まで少し時間がございますので、控室を用意しております。どうぞこちらへ」


 主塔の中は高い吹き抜けとなっていて、空間の中央には大階段が上階に延びている。

 その階段を登り、何階層か上がったところの部屋に通された。


「こちらが控室になります。ご自由にお使いください」

「ありがとう、時間までゆっくりさせてもらうよ」


 部屋は長い机が中央に置かれた一室で、今の気温では必要ないが、暖炉も用意されている。


「時にイブキ様」


 背もたれの高い椅子に座って息を抜こうとした時に、執事から声をかけられた。

 背もたれから背を離して背筋を伸ばす。


「イブキ様は摩訶不思議な獲物で戦いになられると拝聴したのですが」

「ああ、kar98kのことか。それが何か?」

「国王陛下がその獲物をご覧になりたいと仰っているのです」


 ほお、国王陛下が直々にご覧になりたいと。

 それは有り難いことだが……


「申し訳ないが、今日は持ってきてないんだ」

「ですが、これは国王陛下たっての希望なのです。どうにかしていただけないでしょうか」


 どうにかしろったってなぁ……

 リエも今日はKar98kを持ってきている様子はない。

 そうなると、残されて選択肢は一つだ。


「今から取りに戻ることになるが…… 大丈夫か?」

「そうして頂けるとありがたいですな」


 式開始まで、まだ一時間はある。

 走って家に戻ればギリギリ間に合いそうだ。

 国王の要望を無下にはできないし、もしかしたら将来これが約に立つかもしれない。


「急いで取ってくるよ。式までには戻る!」




 ◇◇




「ハァ、ハァ、つ、疲れた……」


 マラソンのような長距離を走り終え、城門をくぐり抜けた後、膝から崩れ落ちた。


「やっと戻ってきたね。お疲れ様」


 肺が搾り取られそうな俺の背中がやさしくさすられる。


「お疲れ様でした、イブキ様。間もなく式が始まりますので、会場にご案内します」


 会場は主塔の中の大広間で、既に二人のプレイヤーが待機していた。

 一人はクーガーで、もう一人は…… 誰だ?


「やっと来たか。腹を下したんじゃないかと心配したぞ」

「すまない、忘れ物を取りに帰ってんだ」


 俺とリエはクーガーの右に横並びになる。

 会場の厳かな雰囲気に呑まれてしまいそうだ。


 ギィィイイィィッッ


 大広間の後ろの扉がきしむ音を立てて開く。


 直接見たわけじゃないが、オーラで国王が入ってきたことを直感的に感じた。


 国王は俺たちの眼前にある壇上に上がった。

 こちらを向くと、柔らかい笑みを浮かべる。


「そう緊張せんでもいい。この戦いで獅子奮迅の活躍をした冒険者殿を讃えようというだけだ。楽にしてよいぞ」


 そうは言われても、直立不動の体勢を崩すわけにはいかないだろう。


「本日皆に授与するのは、クライリース十字勲章。この勲章は、敵前において勇気を見せ殊勲を立てた人物に付与される、セジョア王国における最高武功勲章だ。この勲章を与えられし者はこれからも王国を救い、いずれは世界を救う偉大な人物となるであろう。では、冒険者ネロ、前へ」


 ああ、なるほど。

 もう一人の知らない人物はネロか。


 名前を呼ばれた冒険者から壇上に上がり、短い会話を交わして国王から勲章を受け取る。


「冒険者イブキ、前へ」


 俺の番が来た。

 ギクシャクとした動きで壇上に登る。


「随分と硬い顔をしているぞ。ほれ、もっと笑え」

「こ、こうですか?」


 指摘を飛ばされ、なんとか顔をほぐそうとする。

 向こうから見れば、きっとぎこちない顔になっているだろう。


「それで良い。例の得物は持ってきてくれたか?」

「勿論です。国王のお望みですから」

「それは良かった。では、勲章を授ける」


 受け取った勲章は中心に王冠が彫られていて、十字星を基調とした形になっている。

 これがクライリース十字勲章―― 正真正銘、俺が戦うことによって得た名誉だ。


「この後のパーティー、楽しみにしておるぞ」

「は、はい」


 壇を降り、元の位置に戻る。

 リエが勲章を受け取り終わると、国王も壇を降りてきた。


「さて、堅苦しい式はこれで終わりだ。さあ、後は皆で楽しい祝勝パーティーといこうじゃないか」

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