第38話 ポテトマッシャー

 コッ コッ コッ コッ


 ダンジョン入り口の階段を上がる。

 Gew43はマガジンを装着済みで、既に臨戦態勢だ。


 階段を昇りきると、これまた狭い通路に出た。

 通路はいたるところで直角に折れ曲がっている。

 左右の壁には所々に扉が設置されている。


「さて…… まずは一層か」


 通路は空中の光の粒によって、先まで照らされていた。

 まだモンスターの姿は確認できない。


「とりあえず、モンスターとかち合うまで進もう。俺、アキレス、リエ、ステラの順で行く。リエはステラの護衛を頼む」


 通路の左端に身を寄せて先に進む。

 左右の扉には構わないことにした。

 触らぬ神に祟りなしだ。


 ガッ


「くっ、ここは狭いな。取り回しが大変だ」


 MG42を持つアキレスが、後ろで愚痴をこぼす。


 MG42の全長は約一・二メートルで、重さは一一・六キロもある。

 狭い通路では使い勝手が悪いのだろう。


「けど、群れで襲いかかられたらアキレスが頼りだ。扱いづらいだろうけど、頑張ってくれ」

「そうか、了解した! 私に任せておけ!」


 キイイッ


 突然、後ろの方から軋むような音がする。

 その音を聞いて、背筋に冷たいものが走った。


「ま、まさかな」


 顔をひきつらせたまま、後ろを振り返る。

 悪い予感は的中していた。

 誰も触っていないはずの扉が開いていた。


 バタン


 考える間もなく、体で押さえつけて扉を閉じる。


 しかし、扉を閉じる前に、一匹のモンスターが部屋から出てきてしまった。

 木で作られた、犬のような形をしたモンスターだ。


 即座に腰のP08を抜く。


 パンパンパンパンパン パン パン パン


 全弾を連続で叩き込んだ。

 モンスターは部品ごとにバラバラになり、活動を停止した。


 ガンッ ゴンガンッ ゴゴガッ


 体重で押さえつけている扉の向こうから、強い衝撃が伝わってくる。

 それも連続で。

 衝撃のたびに扉が少し浮く。


 この奥にどんだけモンスターがいるんだ?


「大丈夫!? 抑えられそう!?」


 俺を見かねてか、リエとステラが加わってくれた。


「アキレス、二脚バイポッドを立てて射撃用意! 目標はこの扉だ!」

「よしわかった、私の出番というわけだな!」


 アキレスが用意をする間、俺たち三人は必死に扉を押さえ込む。

 しかし、衝撃の大きさは次々と増大する。

 三人の力を持ってしても、今にも扉が開いてしまいそうだ。


「準備できたぞ! いつでも撃てる!」


 アキレスは伏射の姿勢をとった。


「よし、合図で同時に扉から離れるぞ! 三、二、一、今っ!」


 バタァンッ


 扉が叩きつけられるようにして勢いよく開く。

 木で作られた大量のモンスターが、通路へ流れ込んでくる。


 ズズズズズズズアァン ズズズズズズズズアァン


 待ち構えていたアキレスのMG42が火を吹く。

 圧倒的な連射速度を活かし、一匹たりとも通路に

通さない。

 モンスターはどいつもこいつもバラバラに解体されていく。


 残骸が扉口を塞ぐ頃には、中から出てくるモンスターはいなくなった。


「よし、片づいたみたいだな!」


 アキレスはスカッとした笑みで立ち上がり、爽やかに汗を拭う。


「ふう、危機は去ったか。体勢を立て直したら先に進もう」


 再装填リロードと再編を終え、通路を先に進む。


 バダァンッ


 さっきと同じ音がまた聞こえた。

 今度は即座に反応する。


「くっそ、またかよ!」


 通路には再び激しい銃撃音が響いた。




 ◇◇




 カラン カラン


 地面に落ちる薬莢が、軽い音を立てて転がる。


「ルームクリア! これで八部屋目か?」

「ううん、十だよ。でも、私たちもだんだん慣れてきたね」


 あれから俺たちは、何度も襲撃を受けた。

 何度も何度も。

 その度に撃退し、ついに法則を見つけ出した。


 その法則は


 ・各扉に部屋が一つある

 ・部屋には木でできた大量のモンスターが待機

 ・扉を開くとそのモンスターが出てくる

 ・全員が扉の前を通過しない限り、扉は開かない


 といったものだ。

 実質的に、通路を進むには全ての部屋を制圧するしかない。


 この法則を見つけ出し、俺たちは戦法を変えた。

 次の扉に着いたので、実際にやってみよう。



 未制圧の部屋の扉に接近すると、各々が配置につく。

 リエが扉のヒンジ側につき、ラッチ側に俺、アキレス、セレンが順に並ぶ。


「準備よし、始めよう」

「うん、それじゃ開けるね」


 リエはそっと少しだけ扉を開く。

 拳は通るくらいの広さだ。


 その開口部に、俺が柄のついた黒い缶のような物を投げ入れる。



 約四秒、やけに長く感じる沈黙が走る。



 ドガアアアアァアアァン



 部屋の中から大きな爆発音がした。

 衝撃波に押され、扉が少し開く。


 俺が投げた物の正体は『M24型柄付手榴弾』。

 あだ名は『ポテトマッシャー』。

 小さい缶詰型の炸薬部に木製の棒をつけた形状から、そう呼ばれている。


 次に、アキレスが半開きの扉の前に立って、MG42を構える。


 ズズズズズズズズズズズズズアァン


 アキレスは部屋に大量の銃弾を叩き込む。

 扉などお構いなしだ。


 どこかの戦争で機関銃兵が言っていた。

 「CQB近接戦闘よりMG機関銃で薙ぎ払うが易し」と。

 向こうに敵しかいないなら、わざわざ危険を冒して部屋に突入する必要はない。


 ズズズズズズアァン


 ドラムマガジンの五十発を撃ちきったところで、射撃を止める。


 そして次が俺だ。

 ボロボロになった扉を蹴破り、部屋へと突入する


 ダアン ダアン ダアン


 部屋の角に移動しつつ、生き残りをGew43で始末する。

 こんな状況で生き残るなんて、運が良いんだか悪いんだか……


 ダアン


 最後のモンスターを倒し、もう一度部屋全体を確認する。


「ルームクリア! よし、次にいこう」


 こんな感じで、俺たちは一つづつ部屋を着実に制圧して、通路を進んでいった。




 ◇◇




「ルームクリア! 階段があるな、これで四層も終わりか」


 あの後、幾多もの部屋を制圧した。

 その結果、いつの間にか四層を踏破してしまった。

 どこかに強敵が居たのかもしれないが、ほとんどをポテトマッシャーとMG42で吹き飛ばしてしまったので、真実はよくわからない。


 そして、もう一つの法則を発見した。

 それは、通路の突き当りにある部屋には、上層へと続く階段があるというものだ。


 今制圧した部屋が四層の突き当りの部屋だ。

 この階段を上がれば五層に突入することができる。


 大神官から出された条件は、五層を突破すること。

 あともう少しで条件達成だ。


 階段を上り、五層へと足を踏み入れる。

 その先には、大きな空間が広がっていた。

 四層までとは違い、層全体が一つの大きな空間となっている。


 モンスターの姿はなし。

 全周警戒を維持しつつ階段を上りきる。


「なんだあれは…… 宝箱か?」


 少し遠くに、いかにもな形状の箱があった。

 その箱は、層の中心にぽつんと置かれている。


「拍子抜けだね、これじゃボーナスステージだよ」

「そうだな」


 俺はリエの意見に賛同する。

 大神官にあそこまで言われて苦戦すると思っていただけに、余計にそう感じてしまう。


「まあ、戦わないで済むならこれ以上のことはないな」


 かの有名な孫子の兵法書でも、戦わずして勝つことが最も良いとされている。

 戦う必要がないなら、それが一番いいのだ。


 俺は宝箱を開けようと手をかける。

 すると突然、宝箱が開いた。

 中には目にも眩しい金銀財宝…… ではなく、木の枝がぐねりと曲がってみっちりと詰められていた。


 その枝が触手のようにうねり、宝箱から勢いよく飛び出す。


「な、なんだこれは……」


 予想外の出来事に、俺はあっけにとられてしまう。


 その隙を触手は逃さない。

 上方向から触手が突っ込んでくる。


 ズズズズズズズアァン ズズズズズズズズアァン


 MG42の弾幕により、触手は撃ち払われる。


「何をしているイブキ! ぼーっとしてたらやられるぞ!」


 アキレスが喝を入れてきた。

 それでハッとした俺は、急いで宝箱から離れる。


 ズズズズズズズズアァン


 アキレスは次の照準を宝箱本体に合わせて射撃する。

 しかし、宝箱は触手を防壁のように組んで、全弾を防いだ。


 なんて触手だ。

 これじゃ銃弾での攻撃は不可能じゃないか。


「アキレス、そのまま牽制してくれ! 手榴弾グレネードでぶっ飛ばしてやる!」


 俺は宝箱を狙ってポテトマッシャーを投げる。


「届けえええっ!!」


 ポテトマッシャーは放物線を描いて触手の防壁を飛び越える。

 しかし、新たな触手が現れ、頂点のところで捕まえられてしまった。


 ドガアアアアァアアァン


 ポテトマッシャーはそんなのお構いなしに爆発する。

 爆発によって、触手の先が吹き飛んだ。

 しかし、宝箱本体には傷ひとつついていない。


「くっ…… これでもダメか! 一旦四層に戻るしかないな!」


 ダアン ダアン


 銃弾で触手を牽制しつつ、一人づつ階段を降りる。

 最後に俺が降りると、うねうねと動いていた触手が宝箱の中に戻り、蓋がぴったりと閉まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る