第40話 儀式
コッ コッ コッ コッ
ダンジョン入り口の階段を降りて、大神官の間に戻る。
そこには、大神官様とローヴェンスが待ち構えていた。
二人はセレンの姿を見た時、ホッとしたような表情をした。
「おかえりなさいませ、姉様」
「おかえり、セレン。ダンジョンはどうだった?」
大神官様は、優しい声でセレンに聞く。
それにセレンははにかんで答えた。
「すごく楽しかった」
「そうか、それは良かった。いったい何層まで突破したんだい?」
「十層」
セレンが淡々と答えると、二人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「じゅ、十層ですか!? そんなまさか!」
「完全攻略、ということだね…… イブキくん、本当かい?」
大神官様が確認を取ってきたので、俺はコクっと一つ頷く。
「うん、これは文句なしだね。認めよう、セレンとの結婚を」
「……結婚?」
思っていなかった言葉に、俺は反射的に聞き返す。
「そう、結婚。そのために来たんだろう?」
大神官様は圧をかけつつ言ってきた。
あ、あれ。
もしかして俺、勘違いをしてたんじゃないか?
いや、まずはどう返事をするか考えないと。
「はい、そうです。セレンとの結婚を認めていただいてありがとうございます」と言って、有り難くセレンを頂くか?
いやいやいや、待て待て待て・
こんな適当な認識で、
確かに俺にとってはゲームの一イベントかもしれないが、セレンにとっては人生の一大イベントなんだぞ!?
俺は猛スピードで頭を回転させて、なんとか答えをひねり出した。
「すみません、もっとセレンのことを知ってから結論を――」
「おっと、嫌とは言わせないよ?」
大神官様が、俺にしか聞こえないよう耳打ちする。
「君は遜色なしにセレンに相応しい。それに、君にもメリットは多い。セレンの旦那ということなら、色々と融通ができる」
ぐぐぐ、聞こえるぞ。
ブルドーザーが堀を埋め立てる音が聞こえる。
「えーっ、セレンちゃんだけ結婚するなんてずるいなー。私もイブキくんと結婚したいのに」
「くっ、私もそう思っていたんだが…… 先を越されたか」
お、おう?
お二人ともなにを仰ってるんですか!?
それを見たセレンが、大神官様の袖を引っ張る。
「私は二人の気持ちも尊重してあげたい」
「とは言ってもね…… 精霊教に重婚なんて無いし…… それに、対外的な目も――」
セレンの要望に、大神官様は難しい顔をする。
「姉様を正室とし、リエ様、アキレス様を側室とするのはどうでしょうか。これであれば対外的な体裁も問題ありません」
ローヴェンスの提案を聞いた大神官様が、まっすぐ俺を見た。
「イブキくん、三人ともちゃんと愛せるかい?」
「はい、精霊に誓って」
俺は淀みなく返す。
精霊のくだりはノリだ。
「ふふっ、それなら式は精霊式で用意しよう。ローヴェンス、案内は頼めるね?」
「はい、仰せのままに」
「ふふっ、それだったら式は精霊式でやろうか。ローヴェンス、案内は頼めるね?」
「はい、仰せのままに」
そうして俺たちは、結婚式に挑むことになった。
◇◇
ヒュォォォオオオオォォォォ
風切り音が鳥肌を立たせる。
「ひぃぃ――ッ! な、なんでこんなところに」
遥かに下に見える地面に足がすくむ。
俺たちが今立っているのは、世界樹の枝の上。
高度千メートル以上の超高所だ。
「なんでと言われましても…… これが精霊式ですから」
ローヴェンスは説明しつつ、俺に早く先に進むよう催促する。
精霊式の結婚式はなんともクレイジーだ。
もう一度言う、クレイジーだ。
式は新郎新婦共に世界樹から身を投げることから始まる。
落下中に指輪を交換し、地面に着地する。
着地したら神官の祝詞を受け、参列者の祝福を受けて終了だ。
地面に落ちる前に、精霊に受け止めて貰えるらしいが……
新しい生活じゃなくて、人生の終わりが始まりそうだ。
「イブキくん、高いところが苦手なんだね」
「ああ、意外だな」
「苦手なものなんて無さそうなのに」
嫁三人が、生まれたての子鹿みたいな歩き方をする俺を見て言う。
「お、俺にだって苦手なものの一つや二つあるやい!」
こんなに高いところで平然としてられる方がおかしいのだ。
普通の人間は、この高さでろくに歩けやしないだろう。
そんなこんなで、俺はようやっと枝の先にたどり着いた。
既に息は絶え絶えだが。
「さて、準備はよろしいですか?」
「あ、ああ、指輪の方は大丈夫だ。でも、心の準備がまだだから待ってくれ。いいか、押すなよ? 絶対に押すなよ?」
ドカッ
「へ――?」
身体が重力に引かれて落下する。
俺はローヴェンスに蹴り落とされた。
「うおおおおわあっ! 落ちてる! 落ちてるぞ!」
下から迫りくる地面に、身の毛がよだつ。
白目を剥きそうになっていると、セレンに頬を触られる。
「イブキ、落ち着いて」
その言葉によって、ハッと現実に戻される。
「そ、そうだな」
一旦落ち着こう。
これは紐なしでバンジージャンプをしているだけだ。
それより、早く指輪を交換しなければ。
世界樹の枝から地面までは約七十秒。
地面に叩きつけられる前に、三人と指輪を交換する必要がある。
手を取って、翠色の岩塊魔石が留められた指輪を添える。
この岩塊魔石は、世界樹のダンジョンのゴーレムからドロップしたものだ。
「この指輪は俺の愛のしるしだ。受け取ってくれ」
「「「はい」」」
細い指に指輪を通す。
そして、俺の薬指にも三個の指輪がはめられた。
すると、周囲に光の粒が現れた。
「な、なんだ? これは」
光の粒は落下する俺たちの身体を下から包み込んだ。
ググッと制動がかけられ、ふんわりと地面に着地する。
そこには大神官様と大勢のエルフが待ち構えていた。
大神官様が祝詞を捧げる。
「天なる精霊よ、我々は御前に集い、立会人の前でこの四人の婚姻の儀をを執り行う。この結婚に意義あるものは、今名乗るか、永遠に口を閉じよ。イブキ、汝らを愛し、慰め、生ある限り誠を尽くすことを誓うか?」
「はい」
俺ははっきり答える。
「よろしい。イブキ、セレン、リエ、アキレスの四名は、妖精による祝福の下、ここに結ばれた!」
「「「「「ワアアアアアアッ!!」」」」」
立会人のエルフ達により、拍手喝采を受ける。
ああ、なんだか涙腺が緩んできた。
「さて、今日はもうゆっくり休むといい。部屋はこちらで用意してある。僕が案内しよう」
そう言って、大神官様は俺たちをある一室に連れて行く。
その部屋は、とても広い部屋だった。
部屋の真ん中には、天蓋のついたとても大きなベッドが置いてある。
たぶんウルトラワイドキングサイズくらいはあるんじゃないだろうか。
四人で寝ても余裕の大きさだな。
「この部屋には、明日の朝まで誰も絶対に来ない。だから、存分に休んでね」
大神官様は扉を閉じて、部屋を俺たち四人だけにした。
◇◇
チュンチュンチュンチュン
小鳥のさえずりによって目が覚める。
スッキリとしたとても良い朝だ。
隣では、嫁三人がまだ眠っている。
コンコンコン
部屋の扉が叩かれる。
来訪者か。
本当に朝まで誰も来なかったな。
嫁を起こさないように、俺から部屋の外に出る。
外にいたのはローヴェンスだ。
「おはようございます。イブキ様にお客様がお見えですので、お伝えしに来ました。先方は応接室にてお待ちです」
「俺に客? わかった、行くよ」
俺に客なんて、いったい誰だろうか?
ローヴェンスに応接室に案内してもらう。
そこで待っていたのは、一人の女性プレイヤーだった。
「お久しぶりです、イブキさん」
そのレイアというネームの女性は、どこかで見たことのあるようなプレイヤーだった。
生産職が戦っちゃいかんという法はない!~現代兵器でファンタジー世界を蹂躙してやります~ 須摩ひろ @Amaremon
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