第2話 仕返し

俺はダンジョンの中を歩いていた。


チラホラと人影が見える。

その中に高島の姿は無い。


「ほっ……」


学校でもないのにあいつの顔を見たくなかったから良かったぁ。


「さて、今日もいろいろ回収していくか」


その辺の道に落ちていたアイテムを回収していく。

こういうアイテムはあまりランクが高いものでは無いが、それでも売れば十分金になる。

というより、こういうものも拾って金に買えないとユカを食べさせられない。


「はぁ……」


そんな作業をしながら俺はふと電子端末を見た。


スマホは数年前まで流行していたが、もうスマホなんてものは旧世代の化石となっており、今はゲーム世界のウィンドウみたいに空中に映像が投影されるタイプの端末が主流になりつつあった。


手に持たなくても顔の前に映像が投影される。

その中では俺が最近見始めていた配信者か配信を始めようとしていた。


『おはぽん!リカポンだぽん!』


元気な挨拶をするリカポンという配信者。

こんなゴミ拾いみたいなつまらない作業もそれによって多少癒しの時間に変わるのだ。


(今日もいい声だなぁ)


「ふふふ」


おっと。声が漏れてしまった。

誰にも聞かれていないようで安心だ。


(今日はどんなことするんだろうなぁ)


彼女はダンジョン配信者として、有名になっていた。

企画も独自なものが多く、スライムとババ抜きしてみた!みたいな動画もあったりする。


『今日はミノスの塔にきてるぽん!今日は普通に攻略していくよー!』


(あれ、これって、今来ているのと同じダンジョンだな。生リカポン拝めるかなぁ?でも俺陰キャだし放送とか映りたくないなぁ?)


そんなことを思いながらスタスタ歩いていく。


その道中だった。


「おい!何見てんだよ?!てめぇら!」

(ん?)


怒鳴り声が聞こえてきた。

そちらを見ると覆面でカメラを持った男三人が冒険者に絡んでいるところだった。


(高島か?あれ)


その内の一人の服装に見覚えがあった。


今は覆面を付けているが、ここに入る前は覆面を被っていなかった。

その時の服装と今の服装が同じなのだ。


「みみみ、見てませんよ?!」


両手を振って必死に否定する男冒険者に更に言いがかりをつける高島。


「絶対見てたなぁ?!なぁ?!お前ら!」


取り巻きに同意を求める。


取り巻きも頷いて男冒険者は多勢に無勢といったところだった。


「ってわけで、俺は不快になっちゃったって訳よ、お兄さん」


にんまり、俺に向けてくるような笑顔を見せつけている高島。


「不快にさせた料罰金5万円ね」

「そ、そんなめちゃくちゃな」


バキッ!

男の冒険者を殴る高島。


もう見てられない。


「やめろよ」


俺は吹っ飛ばされた冒険者と高島の間に立った。

我慢の限界だ。


「あぁ?なんだてめぇ」


俺(仮面)と高島(覆面)という謎の男2人が睨み合う異常な光景がそこにはあった。


「見世物じゃねぇんだよ、すっこんでろチビ死ね」


そう言って親指を下に突きつけてくる高島。


そのまま更に続けてくる。


「それより、俺に話しかけちゃっていいわけ?チビ」


冒険者に目をやる高島。


「お前もういいよ。気ぃ変わったわ。このチビが代わりに払ってくれるらしいしな」

「す、すみません」


男は俺に聞こえるように謝って走り去っていった。


「あーあ?助けたつもりが見捨てられちまったなぁ?チビ?」


そう言って手のひらを差し出してくる高島。


「5万だよ。きっちり払えよチビ」


そう言われて正直手が震えるのを抑えられなかった。

今まで学校で一方的にいじめられてきたから。


その記憶がフラッシュバックする。


「見てくださいよ高島さん。このチビ震えてますよ」


そう言って俺を指さしてくる取り巻き。

そして


「おら!とっとと5万出せよ!」


殴りかかろうとしてきた取り巻き、だが。


(なんだ?これすごく動きが遅いぞ?)


俺はその攻撃を体を動かしてあっさりと避けた。


高島もそうだけど学校では全然こんな風に見えなかったのに。


ダンジョン内では俺はこいつらの動きをスローモーションで見えるようになっていた。


「あん?何避けてんだ?てめぇ」


ボキボキと拳の音を鳴らして俺を見てくる高島。


ブン!


パンチを解き放ってきたが


(これも、遅い?)


俺はそれを難なく避けた。

学校ではただ怯えてるだけだったけど、今の俺は覚悟を決めた。

そのおかげで動きがちゃんと見えるのかもしれない。


「なに避けてんだ?」


そう言ってくる高島を見て俺は


(いけそうだ)


そう思って高島の足を蹴り払った。


「うがっ!」


ダウンする高島。

そして俺はそんな高島の覆面を剥ぎ取った。


隠していたのに晒される素顔。


「た、高島さん?!」


取り巻きが声をかけようとしていたのを見て俺はその取り巻きから撮影機材を奪い取った。


そして、高島の素顔をその機材に収める。


「やはり配信中、か」


案の定高島はここまでのことを配信していたらしい。

そして俺は配信を中止していないので、これからのことも配信に残り続ける。


「か、返しやがれ!覆面野郎!」


ダッ!

立ち上がって俺の持つ機材を奪い返そうとしてくる高島の手を避けて。カウンターのように自分の拳を高島に叩き込む。


(仕返しだ!)

「がはっ!」


俺は吹き飛んだ高島の顔を機材に収め続ける。


そして、残り2人の取り巻きの覆面も剥がしていく。

それをカメラにばっちり。


「お、お前ら!とりあえず顔隠しとけ!まだ配信中だ!」


そこで気付いたのかバッと顔を覆う奴らだったが、


「もう遅いよ」


そう言って機材を返すことにする。


チラッと画面を見たが視聴者の数が表示されていたし、コメントも軽くだけど見えた。



"やぺ、顔見えてんじゃん。とりあえずキャプチャしとこー"


"俺もおれもー"


と、高島の顔をキャプチャしている視聴者がいたらしい。

なので、その辺は視聴者に任せられる。


そう判断したし。俺にもうこの機材はいらない。


ポイッ。

機材を高島に投げ返した。


「ど、どうするんですか?!高島さん?!お、俺たちの顔が!」

「う、うるせぇ!帰るぞ!」


チッ!

舌打ちして高島達はずらかっていく。


本当になにも出来ずに逃げ帰るような感じだった。


(俺ダンジョン内だとこんなに動けるんだ)


手をグーパーして自分の中にあった力を実感する。


(さて)


残りのダンジョンも攻略してしまうか。


​そうして、ボス部屋までたどり着いた。


「ウガァァアァァアァァ!!!!」


ボス部屋の中にいたのはミノス。


手に巨大なアックスを持って二本の角を生やしているモンスター。


ドッ!ドッ!ドッ!


とそいつが走ってくる。


そんなミノスを俺は腰を低くして待ち構える。


まだだ。

ミノスを射程ギリギリまで引きつける。


「剣術スキル」


迫り来るミノス。

そして俺は


【居合抜き】


剣をすぐ様引き抜いて。


ズバッ!


ミノスの体を引き裂いた。


グラッ。


ミノスの巨大な体が少し揺らめいて。


ドォォォォォォン……。


その場に沈みこんだ。


「ふぅ……これで撃破、だな」


家に帰ろう。

それで、リカポンの配信でも見返そう。


こうやってダンジョンを攻略していく。


それが俺の夜のバイトだった。

バイトと言っても雇われてる訳じゃないけど。


モンスターの素材なんかは換金してしまうと面倒なことになったことがあるのでミノスの素材は持ち帰らない。


そのため一日で稼げる額も限られているが、時間を考えたら俺にはこの仕事しかできなかった。

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