第4話 日本中で話題です、困ります

学園に向かう道中、既に昨日の件は広く知れ渡っていたようでその話題ばかり耳に入ってきた。


電車に乗っていると聞こえてくる女子高生達の会話。


「ねぇ、聞いたぁ?高島のやつ特定されたんだって。笑うー」

「高島ってあの有名な迷惑系の?」

「そうそう、あの炎上系のさ」

「へー。特定されたんだ」

「家の方にも殺害予告とか送り付けられてるんだって。実家は放火されたらしいよ」

「放火て、やばっ」

「でもまぁ自業自得だよねぇ。あんだけ好き勝手やってれば」


そんな会話が聞こえてくる。


電車は目的地についたので俺も学園の方に向かっていく


(でも、高島のやつ。ストレス溜まってるだろうなぁ?俺いつもより酷い目に合わないかなぁ?)


そんなことを思いながら歩いていると


「よっ。西条」


ポンと肩に手を置かれて声をかけられた。

声の方を向くと


「田中か」


俺の唯一の友達の田中が立っていた。


「高島のやつやべぇことになってるらしいぜ」

「そうなんだ。今日は余計酷い目に会わないといいけどなぁ」

「今日欠席じゃねぇかな?」


そう言ってくる田中は俺に端末の画面を見せてきた。


「ほら、高島とその取り巻き。家族ごと全部晒されてるよ」



覆面迷惑冒険者チーム

リーダー

高島=高島 ヤスアキ


その家族

父親 高島 ユキナリ

母親 高島 サチコ


取り巻き

坂田 ミチオ

春田 ユウタ



各名前の下には住所、電話番号。

その他もろもろ個人情報がすべて貼られていた。


どうやらネットにはもう全部晒されてるようだ。

怖いなぁネットってのは。


「これで学園に来れるならすげぇメンタルの持ち主だよ」


半ば呆れたように口にする田中。


「まぁ確かに来ないかもなこれじゃ」


マトモな神経をしていれば来れないだろう。

そう思い学園に向かう。


ガラッ。

自分のクラスの扉を開けてみると当然高島は来ていなかった。


(これで登校するなら本物だな)


そう思いながら椅子に座った。


そんなことで始まった高島のいない学園生活の初日が終わった。


放課後になると田中が俺の教室まで迎えに来ていた。


「よっ、今日部活休みなんだよ。久しぶりに帰ろうぜ」

「久しぶりだな」


頷いて一緒に帰ることにした。


二人で歩いていると声をかけてくる。


「どっか寄ろうぜ?」

「あー、悪い。お金がなぁ」

「奢るからさ」

「悪いな」


田中に礼を言いながら俺たちはファストフード店に入った。


「んでさ、ちょっと話したい事があったんだよな」

「話したいこと?」


俺がそう聞くと朝みたいに電子端末を見せてくる。


「このさ昨日のリカポンの配信についてなんだけどさ」


お前もその話をするのか。


若干困惑しながら


「それで?」

「西条は配信見た?」

「見たよ」

「これを見てほしいんだけど」


スっ。

田中は俺に配信画面を見せてきた。


「なにかあるのか?」

「ここだ」


そう言って画面の中の俺が高島を殴った場面を映し出す田中。


「このさぁ。高島をやった冒険者なぁんか見覚えある気がするんだよな。お前ない?」


お前の目の前にいる男がそうだよ、とは口が裂けても言えないよなぁ……?


「ないかなぁ見覚えは」

「そうかぁ。いやぁなんかさぁモヤモヤすんだよなぁ。くそぅ」


そのモヤモヤはずっと胸の内に溜め込んで置いてほしいと思うのは意地悪なのだろうか?


そう思いながら俺たちは食事を終えると店を出た。


「おー、やべー。高島の親自己退職だってよ。こんなことまで拡散されんだなぁ」

「まじ?」

「おん。なんか、賠償えぐい事になってるってよ」


んで、伝えてくれる数字は途方もない額だった。

俺にはよく分からないような巨額。


10億円?

なんだそれ。


んで、俺は思った。


「ネットって怖いなぁ」

「まぁ、自業自得だしな?あいつの場合。犯罪もやってたらしいからな」


そう言ってページをスクロールしていく田中。


とあるところで止めて


「んでよぉ。今ほんとに話題になってるんだよな」

「なんの話?」


いきなりの話で戸惑っていると画面を見せてくる田中。

どうやら動画サイトのようだが。


そこにあった複数の動画や配信のタイトルに驚いた。


【謎の冒険者について考察してみた】


【謎の冒険者に会うためにダンジョンに潜る配信】


【ミノスの塔で謎の冒険者に会えるまで帰りません】


そんな動画や配信がズラーっと並んでいた。


「どうよ?これ。日本中が高島をやった冒険者の話で盛り上がってるんだよ」


俺の顔から血の気が引くのを感じた。

やべぇ、今そんなことになってるのか……。


高島は人生がもう終わったと思われる。

しかも過激派に放火までされたらしいし。


俺が特定されたら、どうなってしまうんだろうか?


「あ、あはは……すごい流れだね」


乾いた笑い。

いや、笑えないんだけどさ。


「どうした?なんか顔色悪いけど。もしかしてこの冒険者に心当たりある、とか?」

「え?ししし、知らないよ?」

「怪しい反応だな?頼む!なんか分かるなら教えてくれよ。このとーり」


パン!

両手を合わせて頼み込んでくる田中。


「し、知らないって」

「そこをなんとか頼むよ。このとーりだ」

「ご、ごめん。ほんとに何も知らないんだよ」


俺はそう答えて半ば会話を切り上げるように宣言。


「わりぃ、俺用事思い出したわ。また明日な田中」

「お、おい?!」


タッタッタッ。

俺は呼び止めてくる田中の声を無視してその場を立ち去っていく。


「はぁ……はぁ……」


しんど……。


家までずっと走って帰ってきた。


「おかえりなさいイツキ兄さん」


家に入るなりユカが迎えに来てくれた。


「た、ただいまユカ」

「今日は私がなにか作りますね」


そう言ってご機嫌で料理を始めてくれるユカ。


そんなユカが話しかけてくる。


「兄さん聞きましたか?」

「なんの話?」

「迷惑冒険者が全部特定されたみたいですよ」


そんな話をされて俺は声が裏返ってしまった。


どいつもこいつもその話だな。


「そ、そうなんだ」

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもないよ」


まさかユカにもそんな話をされるなんて思っていなかったなぁ。


(それよりもユカでも知ってるなんてな。先日の件がかなり知られてきているのかもしれない)


このままでは俺があの仮面の冒険者だとバレるのも時間の問題かもしれない。


(慎重に動かないとな。バレた時どうなるか分からないし)


数時間後、ユカにバイトに行くことを伝えて俺は家を出ることにした。


いろいろと話題があっても金を稼ぐためにダンジョンには行かなくてはいけない。


願うことはさっさとこのブームが過ぎてくれることだ。


しばらく仮面は装備しない方がよさそうだ。

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