第5話 仮面を外したけど……
幼い頃からそうだった。
俺は少しでも目立ちたくなかった。
だから仮面をしてダンジョンに潜ってた。
そうすることで目立たずに済むと思っていたから。
なのに、先日の一件で一気に目立ってしまった。
だから、今仮面をつければ余計に目立ってしまうだろう。
なので当然仮面を付けずに来た。
(俺なんてたくさんいる内のモブの一人でいいんだ。それでモブらしくさ。ユカと一緒に静かで幸せな日常を送れたらいいって思ってた)
なのにその日常が終わろうとしていた。
日本中が俺のことで騒いでいるからだ。
だが俺はこの日常を終わらせない。
これからも続けるつもりでいる。
だから全力で逃げることにした。
このまま鎮火して話題が消えた頃に仮面をまた被ればいい。
それで全部終わりだ。
「ふぅ……まだこれだけ騒がれてるんだな」
俺は空中に投影された画面を見ながら思っていた。
今一番人気のある動画サイトのトップは、なぜか
「この状況で見つかったらどうなるんだろうな……」
そう思いながら歩いていると
「……ません」
誰かが後ろで話している声が聞こえた。
俺に話しているんじゃないだろうと思ったが
「すみません。私は配信者なんですけど少しよろしいですか?」
また声をかけられて俺か?と思い振り返った。
そこに立っていたのは20代前半か?くらいの女性。
手にはカメラ。
まさか、生配信中?
陰キャだし配信なんて映りたくないんだけど……。
でも陰キャだから無視なんてできないし……。
「少し質問よろしいでしょうか?」
「え?し、質問っ?!」
そんな事言われると思ってなくて変な声が出てしまった。
「はい。今噂の謎の冒険者についてお聞きしたいんですけど」
「え?うぇっ?」
「このダンジョンには普段から来ているのですか?」
うーん。
「そ、そうですねぇ。時間があれば来てる感じですかね?」
「お聞きしたいのですが謎の冒険者と呼ばれる人物に心当たりは?」
心当たりどころかその謎の冒険者って俺の事なんだけど……でもバレたらどうなるか分からないしなぁ。
徹底的に誤魔化そう。
「うーん。ないですかね?」
よし、言えたぞ!
このまま適当に話そう。
「そうなんですか。残念です」
女性はそのまま歩いて行った。
(なんとか誤魔化せたか?)
そう思い俺はダンジョン内の探索を進めていく。
(下手なこと言えないし下手なことできないよなぁ?これじゃあ)
先日の生配信からしてミノスを一撃で倒すのは普通できない、ということは分かったが……。
(他にやっちゃいけないことが、よく分からないな)
とにかく気をつけないといけないな。
そう思いながら俺が歩いていたが。
「気が気でないな」
いつもなら大して気にならないはずの視線。
それがすごく気になってしまう。
いや、別に特別見られてるわけじゃないと思うんだけどさ。
冒険者たちがチラチラと視線を左右に振る度に俺の姿が目に入る。
それすらも見られてるんじゃないか?っていう恐怖心を駆り立てる。
気にしすぎ、そう言われればそうなんだけど。
(今日はもう帰ろう)
ダメだ。こりゃ。
昨日の今日だ。
しばらくは大人しくしていよう。
そう思い俺はこのダンジョンを離脱する事にした。
家に帰る前の道中。
俺は街の中にあるアイテム屋の前を通りがかった。
普段この時間にアイテム屋にはこない。そのせいでいつもは閉まっているところしか見なかったが
「気まぐれに入ってみようか」
これも何かの縁だと思い俺は店に入ってみることにしたが
(随分派手な店だなここ)
そう思いながら俺は中に入る。
そして派手な装飾の施されたショーケースに目を落としていく。
「た……」
出かけた言葉を飲み込んだ。
(たっかぁぁぁぁあぁぁぁ?!!!!!なんだこの店!!!)
いち
じゅう
ひゃく
せん
まん!
街のアイテム屋さんじゃ見ることのできない値段のアイテムがズラっと並んでる。
(誰が買うんだこれ)
品揃えも一般的には見ないようなものが多めだけどそれでも高すぎる。
しかし。
カランカラーン。
扉が開いて少女が入ってくる。
(この人買うのかな?これを)
そんなことを思いながら俺は店を出ようとしたが少女はカウンターに向かっていった。
そのとき見てしまったのだ。
(珍しいもの持ってるな……)
あの子が手に持っているのは宝箱から一定確率で出てくるレア装備。
俺もあまり見た事のないくらいのものだ。
それと、
(あの子も、見覚えある……?)
あの背格好。
後ろ姿。
見たことあるような、ないような。
俺が頭を悩ませていると口を開いた少女。
「あの、この剣を買い取って欲しいのですが」
と、その声を聞いて思い出した。
すごい特徴的な声だから覚えてる。
なんというかアニメ声?とでもいいのだろうか。そんな感じのかわいい声。
(同じクラスの由良さんか)
陰キャ仲間だから思い出した。
彼女もまた俺と同じく陰キャ。
いや、同じにしたら失礼かな?
しかし、この人がこんなアイテム屋を利用するなんて意外だ。
そう思いながらショーケースをもう一度見るような素振りをして由良さんを見ていた。
自分でもキモイと思うけど俺由良さんの声好きなんだよなぁ……。
(俺の推しの配信者の声にすごい似てるんだよなぁ……)
チラッチラッ。
由良さんの方もチラ見していると。
ゴトッ。
カウンターの上に装備を置いていた。
それと、そう。あの装備。
珍しいものなんだ。
メガネをかけた店主はそれを一瞥して
「これを売りたい、と?」
「はい」
「身分を確認する、冒険者カードを見せてくれる?」
冒険者カード?
なんで冒険者カード?と思ったが見ていると、差し出されたカードを手に取って直ぐに返した。
「五千円だな。それでいいなら書い取るよ」
そう言って札を出そうとする店主。
(冒険者ランクを確認した?それで低ランクだったからこの装備の価値を知らないと思ってカモにしようとしてるのか?五千円?最低でももっとつく)
「やっぱそれくらいなんですね。低ランクダンジョンの宝箱から出ましたし」
そう言ってる由良さんに声をかけた。
「いや、その装備もっと値段つくよ」
くるっ。
振り返って俺を見てくる由良さん。
そのとき、あっ、という顔をして素早く自分の端末の画面を操作した由良さん。
なんなんだろう?ま、いっか。
「西条くん?」
質問に頷いて単刀直入に入る。
俺は指を5本立てて口にする。
「5万円で買うよそれ」
「ご、5万?!」
驚く由良さん。
やっぱりこの装備の価値を知らないらしい。
五千円。いくらなんでもふっかけすぎだ。
ギリっと歯を食いしばって俺を睨むように見てきて店主は続けた。
「言い間違えだ。六万出すぜ」
簡単に上乗せしてきた。
やっぱり価値を知っていて最初に法外な値段を提示した。
「なら俺は10万出すよ」
そこまで聞いて店主は口を開いた。
「どの口が言ってるんだお前。10万払えんのか?ガキ」
「払えるよ」
ギルドから貰った腕章を取りだした。
そこに刻まれた文字は。
───────S
冒険者としての階級と実力を示す文字。
「時間作れば稼げる額さ」
そう言って俺は由良さんを見て続けてやる。
「20出せるよ。50出す冒険者もいるくらいさ。その冒険者と繋がりがあってね。手に入ったら売ってくれって頼まれてるのさ」
そう言うとターンと机を叩く店主。
「25ォォォォォォ!!!!」
「手持ちがもうないな。俺の負けさ」
「ガキが!舐めやがって!これが専門家の金の払い方だ!」
そう言って25万叩きつける店主。
「さぁ、買い取らせてもらうぜその装備」
「は、はい」
由良さんの装備を受け取る店主。
代わりにお金を受け取った由良さんを見て俺は外に出ると
「ま、待って!西条くん!」
店の外で話しかけてきた。
「あ、そのありがとう、もう少しで」
「気にしないでよ」
「ねぇ、あの装備50万ってほんとうなの?」
そう聞いてくる由良さんに答える。
「さぁ?どうだろうね?じゃ、また明日ね」
俺はそのまま家に帰ることにした。
50万の価値?
あるわけないじゃないか。
高くても20万、安かったら5万。そんなもの。
ちなみに当然の話だが俺はこのとき知らなかった。
由良さんが端末を操作した理由を。
後になって知ることになる。
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