第6話 一回だけ配信に出ることになった

翌日。


(なんか教室が騒がしい?)


廊下を歩いている時から教室の中の声が漏れ聞こえていたが。


ガラッ。

扉を開けて中に入る。


クラスメイトほぼ全員の視線が俺に突き刺さる。


(なんだなんだ?陰キャが来ただけだぞ?)


そう思っていたら田中がすっ飛んできた。


「なぁ、お前昨日どこにいた?」

「昨日?田中と別れた後は家に帰ったけど?」


強引にあの後のことを聞かれないか少し不安だったが。


どうやらそのことではなさそうだな。


「昨日ユラッチの配信あったの知ってるか?」

「ユラッチ?」


もちろん知ってる。

大人気の有名配信者の名前だからだ。


ちなみに俺もファンなのだ。

登録者100万人の大手配信者だしファンも多い。


「昨日ユラッチが配信しててさ」


そう言って俺にその配信のアーカイブを見せてきた。


『今からこの装備を換金してみるよ!』


そう言っている配信の中の彼女は街の中に立っていた。


(この声いいよなぁ……)


そう思いながら見ているとユラッチはとある店の中に入っていく。


(ん?)


そこで気付いてしまった。


(これ……まさか)


その店の看板、というか扉に見覚えがあった。

ガラスのショーケースからは店の中の様子が映っており。


そしてその中にいるのは、後ろ姿しか写っていない男で。


でも俺はなんとなく分かってしまった。

そして田中も察していたようで。


「これ、お前だろ?」

「え?ど、どうしてそうなるのかなぁ。あは、あはは。人違い、じゃないかなぁ?」


俺だ……。

店の中にいたのは俺だ。


ということは俺が普段見ているユラッチという配信者は実は。


(聞き覚えあると思ったんだよあの声。ユラッチって由良さんだったのか)


ということを理解した。


んでもって、俺は昨日の配信で全国デビューを果たしてしまった、と。


しかし、ここで俺も昨日店の中にいたのが俺だということを認めるわけにはいかないだろう。


実はこの田中。

ユラッチの大ファンなのである。


そんな田中が俺がユラッチと話したなんてこと知ってしまえば何を言われるか分からない。


それほど熱狂的なファンだ。


それはそうと、ユラッチもそろそろ配信を一旦止めるだろう、と思いながら見ていたのだが。


店に入りカウンターまで向かっていった。


だが、配信を止めなかった。


普通こういう換金したりする時は一旦配信を止める人が多いのだが……止めない。


そこで


『その装備もっと価値があるよ』


俺の声が入った。


そして、ここでやっとユラッチの配信は一旦止まった。


田中が口を開く。


「この声お前だよな?」

「ち、ちがうよぉ……?」


俺たちがそんな会話をしていると先程から俺を見ていたクラスメイト(主に男子から)の視線が更に強くなる。


この反応……。

全員俺があの店にいてユラッチと会話したのを知っている、のか?


チラッ。

俺は由良さんが今日登校してきているのかを確認してみた。


由良さんの席は……俺の隣。


……いない。

まだ来てないのか?


そんな俺の一瞬の視線に気付かない田中は言葉を吐いてくる。


「ユラッチどんな顔だった?!」


その言葉を聞いて俺は思い出した。

そう……ユラッチはすっぴんの顔出しはしていない、ということに。


ユラッチが実は由良さんで俺の隣の席だった、なんて話をすればこいつはどんな逆ギレをするか分からないな。


「だ、だから俺じゃないって」


そうは言っても


「頼む」


パン!

両手を合わせて頼んでくる。


ダメだ信じられてないな俺。


「……普通だよ」

「ふ、普通?あの声で?」


そのときチャイムが鳴った。

田中は肩を落として席に戻っていったので俺も席に座る。


「はぁ……ったく……」


そうして座っているとギリギリになって隣の席に由良さんがやってきて。


「昨日はありがとう」


地味な顔をした由良さんがそう礼を言ってきた。


「別に気にしないでよ」


そう答えて俺は授業を受けるための準備を始めた。


そうして放課後。


「西条くん」


俺に声をかけてくる由良さん。


「なに?」

「奢らせてくれない?昨日のお礼も兼ねて、さ」


昨日の今日。

いろいろと話したいこともあるってわけかな。


「いいよ」


そう答えた時田中がやってきた。


「西条。帰ろうぜ」


俺は由良さんをチラ見。


「悪いね田中。先約さ」

「マジか……お前……」


由良さんはこのクラス一の陰キャと呼ばれてる。

多分1ミリも羨ましくはないんだろうけど。


俺も由良さんの正体に気づかれたくはないので何も答えずにクラスを後にすることにした。


「何がいい?」

「別に、なんでも」


自販機の前で何がいいか聞かれた。

奢る……ってそう言う……ね?


俺はコーラを買ってもらい。


「図書館でいい?誰も来ないし、さ」


ウチの学校の図書館にはフリースペースと呼ばれる話してもいい部屋がある。

そこに行こう、ということだろう。


「いいよ」


フリースペースまで来て由良さんが口を開いた。


「話があるの」


何を切り出してくるのかと思いながら俺は続きを促す。


「私はユラッチっていう名義で配信活動をしてる」


知ってるので頷いて。


「それで?」


聞くと俺に彼女は自分のSNSを見せてきた。


そこにはこんな返信があった。


写真付きで。


"ユラッチの売った装備が60万円で売ってたので買ってきました!ユラッチの手垢付き装備はおいしい!ぺろぺろ"


「えぇ……」


困惑する。

この装備50万の価値はない。


それどころか60万なんて値段を付けられて買うやつがいることに驚いたが。


彼女はそんなこと気にしていなかったらしい。


「西条くんは配信とかしてたりするの?」

「してないよ。どうして?」

「それがね。西条くんの名前は出てないけどこういう投稿しちゃって、 」


と俺にまたSNSを見せてきた。

そこにはこうあった。


"カモられそうだったけど友達のSランク冒険者さんが装備の相場を教えてくれて高値で売ってくれた(*/ω\*)"


装備を売っている最中の配信まではなかったが。

彼女が呟いたことで俺が介入したことはリスナーの全員が知ることとなり。そこで


「Sランク冒険者は珍しいから、良かったらコラボして欲しいって。みんなSランク冒険者が見たいって」


との事らしいが。


「俺配信者じゃないんだけど」

「うん、普通に。私の配信に出てくれるだけでいい」


そう言ってくる由良さん。


「出演料払うから。お願い」


頭を下げられた。


「今度の日曜日。配信しようと思ってるの5万円でどうかな?顔隠してもいいからさ。お願い」


ゴクリ。

5万円……。


大金だ。

ほんとにぃ?


配信とか……あんまり興味なかったけどさ。


一回だけなら……いいかもしれない。


「で、出るだけなら」


俺はお金につられて配信に出ることにした。

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