第7話 いきなり暴言、配信は厳しすぎる

日曜日。

俺は寝坊して寝癖塗れの頭で起きて。


「うわっ。やべぇ!」

「どうしたのですか?兄さん」


服を着替えながらユカに答える。


「今日は用事があるって話したよな?ってわけで行ってくる!」

「兄さん?!寝癖……」


何やら言いかけているユカには悪かったが俺は直ぐに家を出て走っていった。


「はぁ……はぁ……」


全速力。

全力ダッシュで待ち合わせ時間に間に合わせたらそこには由良さんが既に待っていた。


「すごい、寝癖だよ?」


そう言われたが俺に返す言葉もなかったし頷いて今日の予定を聞く。


「なにするわけ?今日は」

「えーっとね。とりあえず配信してぇ……」


そう言いながら配信機材を操作し始める。


「もしかしてもう既に始まってたり?」

「してないよ?場所を特定されて囲まれても困るし」


そう言ってから俺に気付いたような顔をする由良さん。


「んーでも、今日はナイト様の西条くんがいるから暴徒がきても安心かなー?」


ナイト様か……ユラッチの声でそう言われてグッとくるものはあるな。

そう思いながら彼女の指示を待つ。

今日の俺は由良さんに雇われてる身なワケだし。


「じゃ、行こっか」


そう言って由良さんが歩き出した。

ところで行こっかってどこなんだろ。


そう思いながらついて行くと簡単なダンジョン前までやってきた。

それから由良さんはド派手な色のウィッグを取り出してきて、被ると配信を始めようとしたが


「私のことはユラッチって呼んで。それからうーん。西条くんのことはなんて呼べばいいかな?」

「何でもいいよ。西条でも何でも。何処にでもいる名前だし」

「チッチッチッ」


指を振ってくる由良さん。


「私達は今からキャラを演じるわけなのです。それに当たってやっぱ愛称とかあった方がいいわけなのです」


なるほどなぁ。


いろいろ考えてるんだなこの人も。


配信者は大変だな。


そう思いながら俺は手に持っていた兜を見て呟いた。


「じゃあ俺はナイトでいいや」


さっき由良さんも俺の事をそう呼んでたし。


「うん。まぁいいんじゃないかな。じゃあナイトくんって呼ぶよ」


そう言いながら由良さん、ユラッチは配信を開始しようとする。


「今から配信するから顔バレしたくなかったら兜被ってね」


あらかじめ顔を隠せるもの持ってきてと言われていたから持っていた。

ちなみに鎧はフルセットで持ってきたので、全部着ることにした。


頭から足まで着ると西洋の騎士になった。


「なんとかソウルってゲームに出てきそう」


俺の姿を見てからユラッチはテスト配信をする。


「んー、あー。テステス」


それからユラッチは俺の端末に画面共有してくれて配信の反応が見えるようにしてくれた。

全部終わると


「配信スタート!」


"待ってたよ!ユラッチ!"


早速コメントが着いていた。

すぜぇ。

これがチャンネル登録者100万人の力かー。


俺は極力黙っておくことにする。

だって、コラボ相手が男だなんて気付かれない方がいいだろうし、意識させない方がいいに決まってる。


そんなことを思っていると赤いチャットが目に止まった。


ユラッチ守り隊

¥50,000円

"ユラッチ。結婚しよう"


「スパチャありがとー守り隊さん!私も愛してるよ!」


ユラッチはこんなチャットにも返事をしていた。

うへぇ……大変だよな。配信者って。


俺なら言いたくないです。


そこでユラッチは俺にカメラを向けてきた。


「ででーん!本日のゲストを紹介します!コラボ相手のナイトです!」

「……」


黙っておく。

何も話さない。


チャットがどんどん更新されていく。


"ペチャパイな女だ"

"けしからんおっぱいだな"


(何で女だと思ってるんだこいつらは……)


そんなことを思っていると何も答えずにユラッチは進めていく。


「今日はこのSランク冒険者ナイトに冒険の仕方を教えてもらいます!」


俺が何も答えないでいると。


"Sランク?!なのに寡黙だな。これぞ強い冒険者って感じだ"

"この鎧で喋らないの強そう。そうじゃない?"


みたいなコメントがどんどん流れてくる中ユラッチは笑顔のまま進んでいく。


そんな中俺はコメント欄を見ていた。

有名配信者にはどんなコメントが来るのかとか少し気になってたから。


ほとんどユラッチ宛のコメントだったが。

中には俺に向けられたコメントもあった。


"ナイト。「くっ、殺せ」って言ってよ"


(はぁっ?)


くっ殺ってやつか?


なんで俺が。


騎士の見た目してるからか?

チラッ。


ユラッチを見てみるとやってあげなよって視線を向けられていた。


ので、俺はダミ声を出してみた。


いわゆるデスボイス。


思いっきり男の声だと何言われるか分からないし。


「クゥッ……殺セェ……」


何でデスボイスが出るかって?

メタルが好きで練習したから、以上。


コメント欄を見ていると


"すげぇ、デスボwナイトって人間?"


人間かどうか疑われ始めた。

どうしよう。


「ニンゲンダァァァァ」


デスボで喋っていく。


"カッコよくて草"

"ユラッチがコラボ相手に選んだのも頷けるな"


なんてコメントをされていく中1人の視聴者がこんなコメントをしてきた。


"チャンネルないの?"


デスボに疲れたので首を横に振る。


"作る気は?"


これもノーだ。


"勿体ねぇ。にしてもユラッチこんな相手どこで見つけてきたんだ?"


「ナイトはねぇ、私の数少ない友達だよっ☆」


ユラッチがそう返していた。

その後もユラッチとリスナーがコミュニケーションを取りながらダンジョンを進んでいく。


ユラッチは自他共に認める弱い冒険者だから特にバトルしたりすることはない。

リスナーはみんな顔と声目当てに来てる。


そんな中ユラッチがダンジョンの中に生えていたキノコに目をつけた。


「わー、美味しそうなキノコ」


見るからにマズそうでやばそうなキノコを目にしてそう言う。


見る目が無さすぎる。


「ヤメテオケェ」


というよりやばい成分が入っているのは知っているので俺は忠告しておく。


毒とかじゃないけど毒よりタチは悪い。


「いつまでデスボ出すの?」


そりゃ、コラボが終わるまでだよと内心で答える。


「はーい。でも、そうだなぁ、美味しそうだし1口くらい大丈夫だよね?」


パクっ。

火も通さずこのバカ生でイキヤガッタ。


「うげぇ!!!!」


ジタバタ暴れ始めるユラッチ。


コメント欄も騒がしくなってきた。

ほら、だから止めたんだ。


まだ間に合うか?


俺はユラッチの体を支えて背中を叩く。

吐き出させればまた大丈夫だ。


だと言うのに、


「いたぁい?!」

「ガマンシロ!」


そうは言ってみたがユラッチは食べたものを吐き出すことはなく。


やがて体から力が抜けて俺に身を預けてきた。


うわっ……始まったよ……。


「ねぇ、ナイト」


俺の腕から離れると。

今度は向こうから飛びついてきた。


「しゅき、しゅきしゅきーーー!!!」


完全に始まった。


あのキノコ。

少々の媚薬効果があるのだ。


チラッ。


案の定コメント欄も地獄が始まった。


"消せ消せ消せ消せ消せ消せ消せ消せ消せ消せ"

"死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね"


あーあ、リスナーが怒っちゃった。


しかもこれはまだましで。


ユラッチファン25号

¥100000円

だからコラボはやめてくれといったんだ。

完全に目が覚めました。

ユラッチは僕らのことなんて好きじゃなかったし、やっぱり男がいたんだ。

以下略


(すごい長文だよ……)


こういうときどうしたらいいの?!

ユラッチ?!




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