第8話 チャンネルを作成した
「ナイトナイトナイトー」
ユラッチが飛びついてくるが手を出す訳にはいかない。
ここで手を出せばユラッチのガチ恋に俺は殺されてしまうだろう。
「……」
置物のようにフリーズを選ぶ。
直立不動。
今の俺は置物の甲冑だ。
すると
「ナイト?ナイト?」
ブンブン俺の目の前で手を振り始めるユラッチだったが無視だ。
そうしていると
「あれ、私何してたんだっけ?」
ふと我に帰るユラッチ。
媚薬効果が抜けたらしい。
あのキノコに含まれる成分は少々だからこうやって直ぐに効果時間が終わるのだ。
ちら。
コメント欄に目をやる。
"ナイトの名に恥じないな"
"すげぇw俺なら絶対手出すわw"
俺の鋼の意思を褒め称えるようなコメントがちらほら。
ほっ。
これでガチ恋に特定されてぶっ殺されることもないだろう。
その後ユラッチの指示の元ダンジョンを進んでいくのだが。
何人かの視聴者は俺に興味を持ってくれたらしく俺へのチャットをくれていた。
その中でも一際目立つものがあった。
赤いスーパーチャットと呼ばれるものだった。
いおり
¥500円
"本当はユラッチに渡すつもりだったけどナイトにあげるわ。ユラッチ渡してあげて"
(俺に?)
そう思っていたらユラッチが絡んできた。
「えー、すご!ナイトもうスパチャ貰ったの?!」
その言葉で俺は現実に起きていることをようやく認識した。
スーパーチャット。
スパチャと呼ばれるものを貰っていた。
(投げ銭?俺に?)
こんなもの貰えると思っていなかったから完全に驚いた。
ユラッチみたいに高額じゃないけど俺に送ってくれたというのが嬉しかった。
そんな中だった。
一人スパチャしてくれたから流れが出来たのか
名無し
¥1000円
"ナイトはチャンネル開かないの?"
またスパチャしてくれる人がいた。
そのチャットに返事をする。
「ミタイノカ?」
"ミタイ"
といった感じのチャットが急に増殖し始めた。
そうか。
俺なんかの配信を見たい人いるんだな。
"このデスボ癖になってくるんだよなぁw"
"それな。この見た目にデスボが合いすぎてて笑うわ。デスボ配信は新しい"
"寡黙なのも雰囲気出してていいわ"
みたいな感じで俺がチャンネルを開くことに好意的な人がちらほら。
ふーむ。
(正直今のバイトだけじゃお金足りないからなぁ。配信者にはスパチャ、広告収入なんてものがあるらしいし、配信者デビュー、というのはアリかもしれない)
今まで配信なんてこと考えもしなかったけどこんなに見たいって言ってくれる人がいるのなら、と思い自分の端末を操作して動画サイトのアカウントを表示。
そこにはこうあった。
サイジョーというなにもない名前のアカウント。
動画もライブも何も無いチャンネル登録者数0のアカウント。
ただ動画サイトを開き色んな配信者を見るためだけに使ってきたアカウント。
この名前を、ナイトに変えた。
見る側から見られる側になるために。
俺も理解していた。
みんなは西条樹という男を見たいのではなくナイトという配信者を見たいのだということを。
だから、ナイトにした。
それで俺はこのアカウントとIDを配信画面に出した。
すると登録者数が増えていく。
一瞬で10人登録者が増えた。
その後も微増していく。
登録者数100万人とのコラボと考えたらあんま増えてないのかもしれないけど。
まぁまったくの無名であることを考えたらこんなものだろうか?
"配信予定あるんだよな?"
「モチロン」
俺がそう答えると
"楽しみ!"
そんなコメントがつき始めた。
この日。
ユラッチの配信が終わった頃俺のチャンネルの登録者数は100人くらいになっていた。
ユラッチと比べたら取るに足らない数だろうけど俺はこの100人のためにこれからは配信してみようと思っていたのだった。
もちろん一番の目当ては広告収入、だけど。
で、ほそぼそ続けていこう。
大手になる必要はないし。
いつも通り目立たずにね。
◇
夕方の7時。
ユラッチの配信が終わり俺はユラッチの奢りで某ファミレスチェーンにやってきていた。
ユカには弁当を買って帰るということを伝えてあるので俺は久しぶりにいろいろと食べることにした。
奢りだし。
「今日はご苦労さまー♡好きに食べてねー」
同じクラスメイトの口から出る言葉とは思えないけどそう言ってくれていた。
今日ユラッチが稼いだ金額は俺が1ヶ月で稼ぐ倍くらいの額だった。
30万ちょいくらいだった気がする。
それだけスパチャしてもらっていた。
流石登録者数100万人。
恐るべし。
「それにしても西条君が配信者になるなんてねー。これからはちゃんとコラボできるねー♡」
そう言ってくる由良さん。
「あ、モチロン私が配信者だってこと黙っててね?」
「言っても誰も信じなさそうだけどさ」
由良さんは学校で目立つタイプじゃないし俺もこの前のあんなことが無ければ知ることもなかっただろうな。
「それどういうこと?」
だが本人は分かっていないようだった。
キャラが違いすぎること自覚してないのかな?
まぁいいけど。
「これから配信者同士仲良くしようね。分からないことあったらなんでも聞いて」
そう言って自分のメッセージアプリのIDを教えてくれる由良さん。
俺はそのIDを友達登録した。
「このメッセージアプリは完全にプライベートのものだからあんまり教えてないんだぁ」
と言って友達の数を見せてきた由良さん。
俺含めて4人しかいなかった。
俺でも田中、ユカ。
その他ちょいちょいで10人くらいいるのに……4人……て。
その時ピロン。
由良さんのメッセージアプリにメッセージが届いていた。
その内容が少し見えたが
ウオロー
新鮮!
大トロ100円!
某寿司チェーンの広告だった。
その他もチラッと見えたが俺以外のアカウント全部企業の公式アカウントだった。
(やべぇ……とんでもないボッチかよこの人)
俺がそう思っていることも知らないのだろう。
ウキウキで話しかけてくる由良さん。
「どんどんメッセージ送ってくれていいからね!」
「あー、うん」
そんなこんなで由良さんとの食事も終わった。
俺は店の前で由良さんと別れることにしようとしたが
「ねぇ、西条くん。初配信はいつするつもりなの?」
「早い方がいいだろうし明日のつもりだけど」
「私も同行していい?もちろん出演料とかいらないからさ」
きてくれるのか。
初配信だしありがたいかな?
「まぁ、いいけど」
「ほんと?!やった!楽しみにしてるから!」
満面の笑みでそう返してきて家の方に帰って行った由良さん。
俺はそれを見送って歩き出した。
ちなみにこの日の夜。
俺は由良さんにメッセージを送らなかった。
さて、明日の初配信は頑張るぞ。
目標の同時接続はとりあえずひとりだ!
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